はたり、はたり
額を冷ます風。撫でるこそばゆさに、ふ、と目を開ける。
頭上に、魚の尾のように、揺れるもの。
くっ、とすぼまった視界が徐々に開けていき、その輪郭が次第にはっきりしていく。団扇、だった。

「伊助?」

そう訊ねると、「そうだよ」と柔らかな声が闇を優しく揺らした。
暗がりに融け込んでしまった彼の面持ちははっきりとしない。
けれど、きっと、眉を下げて、心配そうな顔で僕を見下ろしているのだろう。
どうも簡単に想像できてしまうのは、最近、伊助に心配ばかりかけているせいかもしれない。

「どう、庄ちゃん、気分は?」
「ん、だいぶ良くなった」

のし掛かるように支配していた高熱は随分と遠くに行ってしまったようだ。
ただただ、熱の残滓と気だるさが重しのように体を押さえつける。
「夏風邪引くなんて何年ぶりかなぁ」と自嘲気味に呟いた僕を労るように、「本当だね」と伊助の掌が降りてきた。
汗で浮ついた前髪をそっと払い、僕の額に触れる。ひやり、と指先が熱を吸着して、それから音もなく消えた。

(掠んで聞こえる声も潤んで見える世界も、その手が離れて淋しいと思ったのも、全ては熱のせいだろうか)

「もうちょっと、寝なよ。……何にも考えずにさ」
「あぁ」

赤子を玩具であやすように、はたりはたり、と伊助は団扇をあおいだ。ゆったりと動く闇に僕は瞼を閉じた。

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