「虎、」

まるで暑さに夏枯れした植物みたいな、精気の抜け落ちた暗い緑。
くてり、と抜け殻のように落ちていたその上衣の傍らに、同じように打ち棄てられた体躯が転がっていた。
僕の声に、隆起した筋肉が小さく反応した。
「んー? 三治郎?」と、気の抜けたような声が耳を掠める。
膜でも覆われたかのように、ぼんやりとしていた彼の焦点が色濃くなっていき。はた、と僕と重なった。

「ごめ、委員会っ」

がばり、と、カラクリ人形みたいに勢いよく起き上がった虎若の頬が心なしかこけているような気がした。
窪んだ眼窩の奥に沈んだ、どろりとした眼に収まる瞳は爛々と怖いほどに光っていた。
研ぎ澄まされた刀みたいで、触れたら今にも切れてしまいそうな空気を彼は纏っていた。

「いいよ。餌やりは終わったし」
「ごめん、帰ったらすぐ行くつもりが寝ちゃって」
「後輩達が頑張ってくれたから……任務、だったんでしょ?」

少しだけ声を落とした僕の問に虎若は何も言わなかった。ううん、何も言えなかったのかもしれない。
けど、ここで六年を共に過ごした僕にとっては、それが答えだということが厭というほどわかっていた。

降りしきる雨のような、さざめく蝉の声が耳の鼓膜を刻んでいく。
それは、絶命させた人々の恨みつらみに似た叫びで。
まざまざと甦る記憶に、鬱積していく痛み。僕は小さく哂った。

(今、辛いのは虎なのに、ね)


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