「ホント暑いな」

鬱陶しそうに髪を振り払う兵助くんの額には、珠のような汗が浮かんでいた。
兵助くんは伸びきった髪をざかざかと手櫛でひと房に纏めると、口で銜えていた紐を指に絡める。
慣れた手つきで、ぐい、と高いところに引っ張り結いあげた。
その拍子に、こめかみの辺りで溜まっていた汗が、つぅぅ、と頬を下り、首筋へと伝っていく。思わずそれを辿って、視線が下降し、

(あ、)

それを見つけた瞬間、眼が眩んだ。太陽の暈を見た時のように。くらり、と。
逸らしたいのに、逸らせれない。まるで、糸で縫いとめられたみたいに意識がその一点に絞らされる。

「斉藤?」

僕の眼差しを感じ取ったのだろうか、黙り込んでいたのがいけなかったのだろうか。
兵助くんが不審げな面持ちで僕の方を見つめていた。
暑さのせいじゃない、別の嫌な汗が背中を撫でて落ちていく。

「ううん、何でもない」

怪訝そうな視線に曝されて、心の臓がぎゅっと締め付けられる。
からからに乾き切った喉をこじ開け、なんとかそう言うと、僕は心の中で自分に命じた。頬を引き上げるように、って。

(ちゃんと、笑えたかなぁ。いつもみたいに)

上着を脱いだ兵助くんの右肩に残る傷痕が、ぽっかりと僕を見ていた。

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