「な、なんかドキドキしましゅね」
「堂々としてればいいのよ。中学生だってお客なんだし」
「そ、そうよね」

トモミちゃんに同意しながらも、内心はおしげちゃんに賛同しつつ、ぐるりと売り場を見渡す。
極彩色の鮮やかな世界がなんとなく眩しい。
小さな一枚布しかない明け透けな胸のラインが視界に入って、マネキンだと分かっているのに、心臓がどぎまぎする。

「わぁ、これ可愛いでしゅ」
「本当〜。よく似合ってるわよ」
「ともみちゃんも、それ、素敵でしゅ」
「そう? せっかくだから試着してみようかな」

二人が胸元に当てて見合っている水着は、去年まで着てたのとはちょっと違う、大人っぽいシルエットをしていた。けど、それがすごくよく似合ってる。
楽しそうに試着室に連れ立つ二人に「ユキちゃんは?」と聞かれて、「あー、もうちょっと探してみる」と返す。けど、なんとなく気が重い。

(やっぱ、ママの言うとおりだったかな)

「中学生にはそんなの似合わないわよ」なんて言うママに腹が立って、貯めていたお小遣いを片手に二人を誘って意気込んでお店にきたけど、こうやって飾られた水着をみると、急に高揚感が萎んできた。
なんとなく、その辺りのハンガーをいじってみるけど、これ見よがしに胸の辺りが開いていたり、やったらフリルが付いていたり。
どれもこれも自分には不釣り合いな気がして。手に取って鏡の前で当てることすら、気恥しくてできない。

「お客様、何かお探しですか」

不意に背後から声を掛けられ、心臓が跳ねあがった。振り返ると艶やかなルージュの唇がにっこりとほほ笑んでる。

「あ、あの、このサンダルください」

つい、すぐ手元にあったカラフルなビーチサンダルを指さしていた。顔が、熱い。


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