「うわっ、もう、全部やってある」

耳元でパラパラと紙の繰る音がし、それに合わせて生ぬるい風がゆっくり頬を横切った。

「せん、ぱい?」

ぼんやりとした視界の先に、夏休みの課題をめくる、しっかり日焼けした腕。
顔をあげようとすると汗が目に入って、慌ててこする。
しみるような痛みに、目を一回閉じて、ぱっと開けると、鮮やかに世界が広がる。
起き上がると、とろりとした赤の熟れたすいかが乗ったお盆を手にした先輩と目があった。

「滝、すいか貰ってきたんだけど、食うか?」
「ええ、いただきます」

私が返答するよりも先に先輩は、すいかにかぶりついた。
じゃく、っという音とともに、赤い飛沫があちらこちらに飛び散る。
大きな口だなぁ、と思いながら私もお皿から手に取る。
口に含むと、しゃくり、と鈍い音が頭の中に轟いた。
冷たさと甘みが、きりもむように重なり合い、喉から落ちていく。

「しっかし、真面目だなぁ。私なんて、全くしてないぞ、宿題」
「……少しはしてください」

しゃくしゃくと食べ進めていると、がりっ、と歯が種に当たって削り取るのが分かった。
青臭さと鈍い苦さが口の中に広がって、少しだけ舌が痺れる感じがする。
不意に、ぴり、っと熱が頬を走った。

「種、ついてる」

先輩の指が、私に触れていた。種を取ると、すぐに離れてしまったというのに。
彼の指から生まれた熱は、波紋のように私の中に広がっていく。

「滝、すいかみたいに顔が真っ赤だ」


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