※竹にょた久々前提 勘+にょた久々 勘ちゃんは幼馴染

「あー寝ようかな」

さすがに長時間、脳みそを使えばそれなりに疲れる。日曜日だというのに塾の模擬試験なんてな、と愚痴めきたくなるけど、それは自分が選んだことなのだ。文句を口にだすまい。どことなく、ふやけたような頭をぐるりと回し、自室の戸に手を掛ける。開けたとたん、甘ったるい匂いが俺の胸の中で膨らんだ。見やれば、兵助がでっかいクッションを抱え込むようにしてうつ伏せになり、俺が放り出していた漫画を読んでいた。

「あ、おかえり」
「ただいまー」

驚きも何も覚えないのは、これが日常だからだ。といっても、別に、恋人同士、というわけではない。脱いだコートをハンガーにかけていると兵助が「今日、模試だったんだな」と話しかけてきた。

「うん。科目多いから疲れた」
「ふーん。大変だったな。あ、そうそう」

甘い物食べたら元気出るんじゃないか、と押しつけられたのは、透明な袋に赤いリボン、シンプルなラッピングが施されたその中に入っているのは、まがいもなく手作りのお菓子。甘い匂いの原因は、どうやら、これのようだ。

「あー、今日、14日か」

そういえば会場で、バレンタインだ何だとぎゃぁぎゃぁ騒いでいた奴らがいたことを思いだした。こうやって兵助に渡されても、いまいち、ピンとこないけど。これもまた、毎年、恒例になってるからだろうか。

「そう。もう一つはおじさんの分なんだけど」
「あー。……今日、遅いと思うから、俺から渡しておくよ」

一瞬、躊躇ったのは、兵助を父さんに合わせると厄介だからだ。俺の父さんと兵助の父さんは親友って奴で、母さん同士も仲が良い。俺たちが生まれた時に「将来は、親戚だな」と肩を叩きあった、なんて逸話があるくらいだ。付きあってもないのに「孫の顔が楽しみだ」なんて口にする両親'sのことだ。バレンタインなんて格好の餌食になる。そんな予想図(というか確定した未来)が過って、思わず考え込んでしまった。そんな間を気にすることもなく、兵助は「うん。頼んだ」と俺にクッキーの詰まった子袋を手渡した。

「今年もクッキーなんだな」
「これが一番失敗がないからな」

小学生の頃こそ、大きく焦げたチョコケーキだとかが届いたこともあったけど、ここ数年はチョコチップクッキーで落ち着いた。それはそれで淋しい気もしたけど、兵助の場合はあまりチャレンジ精神がない方がいいのかもしれない。兵助の料理の腕前は壊滅的、とまではいかないものの、時々、どこでどう間違えたのか、すごく刺激的なものが出てくることがあるからだ。

「食べてもいい?」
「あぁ」

兵助の了承を得て、俺は結わえてあったリボンを解きにかかった。左右の長さが微妙に違うそれを引っ張れば、折り痕はほとんど残らなかった。そのことからも、きっと、さっきまで作ってきて、できたてを持ってきてくれたのだろう、ということが分かる。一枚つまめば、ほのかな温もりが指先に伝わってきた。

「いただきます」

こんがりと焼けたバターの匂いが口の中で崩れ、柔らかなチョコの甘さが一杯に広がった。面と向かって「うん、おいしい」と感想を告げれば、「よかった」と笑う兵助の手も袋へと延びていた。別段止めることもせず、兵助の口に運ばれるクッキーを見やる。一応、俺にくれたことになってるのだが、こうやって一緒に食べるのは、毎年のことだった。

「ん、成功だな」
「兵助、味見、してないのか?」
「だって勘ちゃんだし」
「あのさぁ……そういえば、竹谷には、あげないの?」

2枚目のクッキーに伸びかけていた兵助の手が、止まった。そちらに向けられていた視線は、俺の方に一瞥を寄こして、それからすぐに逸らされた。さっきまでノリ良く笑っていた唇のカーブは、すっかりと潜んでいた。中で人差し指と親指をすり合わせながら、兵助が呟く。

「あげない、よ」
「何で?」
「だって、下手だし」

料理の腕前知ってるだろ、と軽く睨まれ、「竹谷なら、なんだって美味いって食うと思うけど」と返せば、兵助は黙り込んだ。どうやら、料理下手、が理由ではないようだ。目だけで「他には?」と促せば、兵助の声はさらに小さくなった。

「だって、自分があげなくてもいっぱいもらうだろうし。それに、」
「それに?」
「それにチョコをあげるってことは、告白してるようなものだし」

普段の態度から兵助は竹谷に好意を持っている、そう思っていた俺は不思議に感じて「兵助は竹谷のこと、嫌いなのか?」と問いかけた。目を見開いた兵助は、慌てて首を大きく左右に振った。「嫌いじゃないよ」と。「だったら、」と言い募る俺を、兵助は厳しい笑みで遮った。

「……怖いんだ」
「怖い?」
「もし、ふられたらさ、って思うと」

竹谷が兵助を振るなんてありえない、そう言うのは簡単だった。見ててこっちが照れるくらい竹谷は兵助に対してアピールしてる。だから、兵助が恐れているのは、『自分自身が傷つくこと』なのだろう。そう分かっていたけど、俺は何も言えなかった。だたただ、俺は唇を噛み締めることしかできなかった。口の中に残された甘ったるさが、胸に吐いた。


迷子の指先は嘲笑う、


(ほんと、どうしたものかなぁ、この二人)


title by カカリア

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