※某チャットでお世話になった時に目覚めた(笑)音大パロです。竹久々メインだけど、勘ちゃん含む5年メンツはいつものように出張ります!ノリ重視なので音楽知識は当てにしないでくださいませ、、、



「三郎、雷蔵!」

学食に現れた友人を見つけ「おーい」とばかりに手を振り回せば、トレーを手にした二人が俺の元にやってきた。一人は穏やかな笑みを浮かべ、もう一人は苦虫をかみつぶしたような表情で近づいてきた。

「ハチ、なんか楽しそう。ご機嫌だね」
「気持ち悪いくらいな。足、地面についてるか?」

げんなりとした色の三郎の嫌味さえ今はパステルカラーに見える。鼻歌どころか大声で歌いだしたい気分だ。あの日以来、俺たちは絶好調だった。俺が走っちゃって兵助に止められるのは相変わらずだけど、一方的じゃなくて俺の解釈も聞いてくれた上でどうしていくか二人で考える事が増えて、雰囲気が変わった。こう、目指す方が一致したというか、曲にもばしっとびしっと纏まりが出てきたような気がする。その分、時間が掛ってようやく全体の7割ぐらいだろうが、二人で創り上げていくのは楽しかった。

------------何より、兵助がレッスン中に笑うようになったのが一番嬉しい変化だった。

「なぁなぁ、来週の火曜日さ、暇?」
「何かあるの?」
「例のコンクールのさ予選会っつうか、学内のコンペがあるんだと」
「そうなの? てっきり、ハチ達が出れるもんだと」
「俺もそう思ってたんだけどさ。学園長がこの間ひょっこり練習に現れてよぉ」

座るなり茶を飲みだした三郎を無視して、俺は身を乗り出して聞こうとしてくれている雷蔵の方に顔を向けた。

***

「そこ速すぎだろ。もっと溜めた方がいいんじゃないか?」
「けど、後の所の効果を考えたらさ」
「ぶふぉっ!」

背後からの咳払いにテンポの解釈で言い争っていた俺たちは思わず飛び上がった。振り返れば、いつの間に部屋に入ってきていたのか、学園長がそこにいた。振り子の最高値まで跳ね上がった心臓が太鼓みたいに打ち鳴ってる。思わず兵助と見合ってしまって、その場にへたりこみそうになった。

「が、学園長」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。調子はどうじゃ?」
「絶好調っすよ」
「その割には、まだ仕上がってないようじゃがのぉ」

ふむ、と、たっぷりとした眉に隠れて普段はどこにあるのか分からない目が光ったような気がした。やべ、見抜かれてる、とたじろいだ俺とは対照的に「本番までには完璧な演奏に仕上げます」という兵助の言葉は力強い。それに後押しされるようにして俺も「絶対ぇ金賞取りますんで」と加勢すれば、彼は小さく笑った。

「その事なんじゃの、来週の火曜日に一度披露してもらいたいんじゃ」
「え?」
「実はの、コンペをすることになったんじゃ」
「コンペ?」
「まぁ名高いコンクールじゃからのぉ。何の経歴もないコンビを出場するのはどうか、と反対があったのじゃ」

語尾を濁すような学園長の言葉に根強い反対があるのが見て取れたけど、今の自分たちなら絶対に勝ちとれる、そう思った。それは俺だけじゃなくて。

「という事は、そのコンペで黙らせればいいわけですね」

兵助の言葉に「何気にぶっそうなこと言うなよ」と突っ込めば、ぶぉふぉっふぉっふぉぉっ、と学園長は吹き出した。それから、「頼もしい限りじゃの。楽しみじゃ」とくるりと踵を返して部屋から出て行った。

***

「ふーん。じゃぁ、そのコンペで決めるんだ」
「そうなんだよ。来てくれよ。兵助にも二人を紹介したいし」
「火曜、ね。仕方ないから行ってやるよ」
「ホントは聞きに来てぇくせに」
「雷蔵、こいつ殴っていい? うざい」
「殴らないで。で、コンペには他に誰が出るの?」
「ピアノの方は分からねぇんだけどさ」

兵助が担当教官から聞いてきた相手の名前を伝えれば、「あぁー」と二人が頷いた。なんとなく、沈んだトーンに「どんな奴?」と問いかければ三郎と雷蔵は顔を見合わせた。顔を顰めて「えっと、」と言いづらそうにしている雷蔵に代わって三郎が吐き出した。

「嫌な奴」
「嫌な奴って?」

そう返しても、それ以上口を噤んでしまった三郎に、困ったように雷蔵が見遣った。ふぅ、と軽く息をつくと「もう僕は気にしてないのに」と子守唄のような柔らかい口調で雷蔵は三郎を宥めた。

「や、あいつはだけは絶対に許せない」
「何かあったのか?」
「前に三郎が組んだことがあったんだけどね、」

雷蔵が説明しだしたのを止めるように「腕は確かだけど性格はカスだ。カス」と三郎が不機嫌な重低音を被せた。それ以上立ち入らない方がいいのかも、と思っているとポケットの携帯が震えた。設定していたアラームが時間を告げていた。ディスプレイの中で鐘の絵文字が踊ってる。

「っと、そろそろ時間だな」
「今から、練習?」
「おぅ。とにかくコンペまであとちょっとだからな」
「人間、変わるもんだな。あのさぼり魔のハチが練習の鬼になるとはね」
「うるせぇ」

笑いながらそう答えると「じゃぁな」と席から立ち上がった。これから兵助に会うことができるのかと思うと、さっきの携帯の絵柄の鐘みたいに心が踊る。だから、ちっとも気づいてなかった。----------俺の頭の上に立ちこめていた暗雲に。




ノクターンは必ずやってくる


title by Ronde of dream

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