バイト先から、クリスマスに入ってもらったお詫び(という名の廃棄)で貰い受けたイチゴショートは、生クリームは微かにピンク色になっていた。口に入れると、クリームがちょっと水っぽい。賞味期限が切れると、コンビニ商品ってのは、どうも急に不味くなると思う。いったい何が入れられてるんだ、と思うこともしばしばだけど、苦学生としてはそれで命を繋いでるわけで、文句は酸っぱいイチゴと一緒に飲み下した。

「ハチはさ、いつ頃までサンタ、信じてた?」

生クリームにまみれたイチゴをつっつきながら、唐突に兵助が尋ねてきた。こたつに入ってるせいか眠たげな眼をしていて、それでいて、さっきまで静かだったから、うたた寝でもしてるのかと勝手に思ってた。日付は2時間以上も前に変わってる。バイト代が跳ね上がり、なおかつ、いろんな奴に「代わってくれ」と言われた俺はこの2日間、ほぼ寝ずに働いた。友達から恋人に昇格して三度目のクリスマスだったから、兵助は俺の経済状況を理解してくれていて、最初は26日の夕方に会うことにしていた。けど、「やっぱり、会いたいし、待ってる」なんてメールが夜も遅い時間に入っていて。バイト上がってから、原チャを飛ばして帰ったけど、やっぱりクリスマス当日には間に合わなかった。

「ハチ?」

急に話しかけられたもんだから、ぱさぱさしたスポンジが喉に詰まった。ぐぅ、と胸を抑えていると、兵助は「大丈夫か?」と卓上にあった湯呑を寄こした。すっかり温くなった緑茶でケーキを押しこむと、ようやく呼吸が楽になる。サンキュ、と兵助に礼をしてから、俺は続けた。

「どうだろうなぁ? 結構、早くに気づいてたと思う。親がサンタって」

ほら、俺ん所、兄弟多いだろ、と付け足すと、兵助は事訳を知りたそうな顔をしていたもんだから、「兄貴にばらされたんだよ」と更に言葉を重ねた。

「そっか」
「おー、お陰で、すっかり擦れた子どもになっちまった。そっちは?」

俺の冗談に楽しそうに笑う兵助に尋ね返すと「俺も早かったよ」と兵助はかき混ぜてたフォークを皿に置いた。ワントーン下がったような気もしたけど、流れのまま「なんで?」と問うと、さっきまで溢れかえっていた笑みが潮のように引いた。そのあまりの速さにびっくりして、--------それから、失敗した、と思う。幼いころから、明るく自分の思いを素直に出して誰とでも仲良くすることができる、と通知表に書かれ続けてきた俺の長所は、時として人を傷つけるのだ、と分かるようになったのは、伸び続けた身長が止まりかけた頃のことだった。ごめん、と謝りたくなる心を抑えつける。謝ったら、余計相手に嫌な思いをさせてしまうだろう、そう知ったのは、つい最近のことだった。何か別の話題を探しに部屋をきょろきょろしてると、

「小学生くらいまでは、一年に一回だけさ、父さんが会いに来たんだ」
「そうなんだ」
「ん。でさ、サンタから預かってきた、ってクリスマスプレゼントを持ってくるわけ」

最悪だろ、と紡ぐ兵助の眼は、迷い猫みたいに頼りなさそうだった。こたつ布団に投げ出された彼の拳は、きつく、握りしめられていた。きゅ、っと白くなった爪がその強さを物語っている。

「本当に小さい頃は、さ、思うわけ。俺がいい子じゃないから、サンタクロースは来ないんだって。けど、それがさ、ちょっとずつ、すり替わってくのな。俺がいい子じゃないから、父さんは会いに来ないんだって」

だからクリスマスは好きじゃなかったな、と淡々とした口調で語る兵助に、すげぇ後悔が俺を襲う。無理をしてでも、24日か25日に一緒にいればよかった。色々考えたけど、結局、悪りぃ、って頭足らずな言葉しか思いつかず、それが出そうになった瞬間、兵助が口を割った。

「ごめん、ハチに変な顔、させたな」
「兵助」
「今は、そんなに嫌いじゃないよ、クリスマス」

だってハチがいる、と柔らかな笑みを浮かべる兵助に、俺は泣きくなった。俺は彼の手をこたつ布団から引き受けると、ぎゅうぅ、と強く強く握りしめた。軋むような祈りと共に。どれほど俺がお前が愛しているのか、ちゃんと、伝わりますように。どうか、どうか---------。世界中でたくさんの人が祈りを捧げた次の夜、俺は、その神様に、そう願った。



企画 top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -