鉢久々(現代)

※四月十色で配った無配葉書


洗濯機が壊れた。大学入学の時、ひとり暮らしを始めるにあたって入れ違いに卒業していった従兄弟から譲り受けたもので。その当初から、がたんがたん、と夜中には洗濯できないような、ひどい揺れだったのだが、とうとう、寿命を迎えたらしく。ある日、突然、うんともすんとも言わなくなった。しばらくはコインランドリーで済ませるにしても、あと二年。大学院に行くことを考えたら四年。コインランドリーをずっと使い続ける経費と新しい洗濯機を購入する金額の天秤は、当然、後者に傾いたのだが

「あと、一ヶ月、早かったらよかったのにな」

家電量販店の中でどうしても溜息を零さずにはいられなかった。勝手についてきた三郎が、何で、という面持ちを浮かべたから「先輩からもらえたのに」と説明すれば「あー、出ていく先輩にもらえたかもしれにもんな」と納得したかのように頷いた。

もう四月。新天地に巣立っていった先輩の代わりに緊張した面もちの見慣れぬ顔がキャンバスに溢れている時期だ。まぁ、新生活応援フェアとかの期間だっただけましだ、と己に思い込ませ『大特価』と書かれた値札を見遣った。大特価というからには多少値引かれているのだろうが、学生の俺からすれば、やっぱり、高い。

「どうにかして買わずにすむ方法ないかな……」

普段よりも一つ桁の多い額なだけに、と自分でも未練がましい呟きをしてしまっていた。と、ぱちん、と音が鳴った。いいことを思いついた、と言わんばかりの三郎の目は輝いていた。こいつのことだ、碌なことはないだろうと思いつつ、眼差しだけで言うように促す。

「私のアパートに来ればいいじゃないか」

三郎の提案は、何ていうか現実味のないものだった。

「いちいち洗濯物持って、お前のアパートへ? 毎回、面倒だろ」

実際にやってみようと思えばやれないこともないだろうが、続かないだろう。洗濯したいときに三郎が家にいないかもしれないし、しょっちゅう洗濯に行くのは迷惑だろう。かといって、洗濯物を溜めれば、水を吸って重たくなったそれを干すために俺のアパートに持ち帰るのも大変だ。無理だろ、と言おうとした俺を彼は先んじた。

「洗濯物だけじゃなくて、お前ごと来ればいい」

何が言いたいのか、全く分からず「はぁ? どういうことだよ?」と、そう返すと、「だから」と三郎は妙に肩に力を入れた声を出した。

「私と一緒に暮らさないか、って誘ってるんだけど」





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -