竹久々(現代)

※前回イベントで無配したもの

昨日から感じていた違和感は、そろそろ無視できないほどに大きく育っていた。恐る恐る右の唇辺りに感じていた部分に舌を這わせてみれば、じん、と疼きが唇から脳へと伝わる。口内炎、だった。最悪、と呟くことすら痛い。できるだけ、その部分に触れないように、口内炎ができている唇とは反対の左側を選んで箸を使って放り込み、噛んだ時に汁がでないようにあまり咀嚼し、なんとか平らげていると

「兵助、プチトマト、残ってるぞ」

ハチが皿で転がっている赤に目をやった。つやつやとした表面は張りがあり、そのふっくらと膨らんだ球には瑞々しさと甘さが凝縮されているのが分かる。実際に、都会から引っ越してきて初めて口にしたときは感動した。こんなにも野菜に味があるのだと。野菜嫌いだったはずの俺は、すっかりハチの作る野菜に魅了されていた。……けれど、さすがに、今、トマトはごめんしてほしい。

「野菜を嫌ってると、そのうち口内炎とかできるんだって」

なんて言われて、まさに今、その状況なのだが、喋るのも痛くて俺は口を噤んだ。ハチは俺がそれを手にするのを、ずっと待ち続けていた。丹誠込めて作り上げた野菜なのだ、無碍にされるのは許し難いことなのだろう。野菜を残したとき「『いただきます』は命を頂いているということなのだ」と初対面なのにいきなりハチに説教されたことは、一生忘れることができないだろう。「生きることは食べることなんだから、ちゃんと最後まで食べないとな」なんて言われたら。

食べなければいけない、というのは百も承知だったが、けれども、どうしても指が動かなかった。代わりに、無意識のうちに舌がなぞってしまったために傷口が痛みだす。どうしよう、と思っていると、ひょい、と目の前の赤が消えた。と思ったら、眼前に現れる。ハチの指付きで。

「はい、あーん、兵助」







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