竹久々

「待っ」

思わずハチとの間に几帳を立てるがごとく手をそびえ立たせてしまっていた。さっきまで俺の唇に迫っていたハチのそれが、別の尖り方を見せる。「何だよ急に…」と不服そうにハチが首を捻るのも無理はないだろう。ほんの一息前まで俺は彼の口付けを受け入れようとしていたのだから。

「どうしたんだ?」

そう訊ねてきたハチに俺は何も言えなかった。明確な答えがあるわけじゃない。ただ、急に恥ずかしくなったのだ。「や、何かさ、急に…」としどろもどろになってると、押し止めるようにハチに向けていた掌に熱が宿った。ハチの唇、だ。やがて離れた口が言った。

「なあ、しちゃ駄目か?」

(キス22題:掌:懇願)




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