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【中原】
 人生で一番大きな仕事の日。黙って両手を彼に向かって突き出す。
「ったく…帰ってくるつってンだろうが」
「でもっ」
 縋る物を、そして彼の帰る場所である事を印す物が欲しかったのだ。
「…無くすんじゃねぇぞ、特注の奴だからな」
 乱暴な手つきで被される帽子。どうか、お帰りと云わせて。

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