02

 

【太宰】
 友人は死に際に彼女の事を私に託した。
「会いたい、会いたい…あの人はどこなの」
 穏やかな夜にそぐわない悲しい声が部屋から聞こえる。扉に寄りかかりながら、ふと呟く。「彼女の心まで墓場に持って行くなんて、ずるいじゃないか」
 未来永劫、彼女の心が私の物になる事はないのだろう。

-112-

[*prev] [next#]
[TOP/]