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【三日月】
 緑茂る真夏の庭先、艶やかな橙が溢れていた。気配もなく現れた彼が通り過ぎれば、蒼い着物が視界をかすめた。
「霄を凌ぐ花とはよくいったものだな…ふむ。ところで知っているか主、この蔓花は愛の象徴とも言われているらしい」
 囚われぬ様にな、なんて言葉と共に髪に添えられる。

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