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【福本】
「福本さんっ遅れてすみません!」
 桃色が揺らぐ並木道の先で待つ彼の元へ着き、一番に頭を下げる。
「別にそれほど待ってない」
「ほ、本当ですか?」
「ああ」
 頷く彼の中折れ帽のつばから零れ落ちる桜の花弁。珍しく頭上と同じ色が彼の頬にうつった。時折、彼は可愛らしい嘘を吐く。

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