19

 

【田崎】
「君は、愛してるって言わないね」
「田崎にそんな言葉いらないでしょ?」
 渇きを与える其れを口にせず、偽りの名を呼んだ。
「確かにそうだ」
「ほらね」
 霞む紅を乗せた唇は、歪な形をしているのだろう。其れでも彼の熱を受止め、夜を体温で溶かして行くこの行為は、実に馬鹿馬鹿しい。

-139-

[*prev] [next#]
[TOP/]