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【太宰】
「嘘と謂うのは、自分を護る為につくものだよ」
 微熱帯びる眼渕を滑る、温度を失った雫を親指の腹で拭き取られる。
「太宰さん、大嫌いです」
「やれやれ、往生際が悪い。その嘘は私の為についているのだろう?」
 そんな優しさは不要だと云っているのに。と耳元に落ちた溜息が傷口に染みる。

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