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【太宰】
 愛しい恋人の死を想像してうっとりし、それが現実になる事を望んでいる。
「だから、私は貴男の自殺を止めない」
「其れは有り難い。私も君が私を想って涙を流す姿を想像し、自殺を試みる瞬間が幸福でね」
 窓の外、彼の口元と同様、鋭角を備えた月が鼻唄を歌う様に夜空にぶら下がっていた。

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