ナガレ


 ナガレは不思議な人だ。ナガレは私の友人で2、3年前から一緒にいる。出会ったのは学校の敷地内で、学内掲示板の前で佇んでいた横顔が印象的だった。不躾な視線に気付いたのかこちらをちょっと見ると、すみませんって感じで頭を下げて横へ退いた。実際、見たかった掲示物があったのでそれはとてもありがたかった。私も会釈を返して、それで終わった。


 二度目の邂逅が叶ったのは小さな教室でだった。あの時の「教室変更のお知らせ」の掲示に、もしかしたらと思ってはいた。あ、あの人だ、と思って、興味はそこで薄れた。その授業は人気のないマニアックなものだったので、参加者も10人程度だった。けれど教授の話はパワフルで授業内容も飽きがこない。さすがこの単位を取ろうとしただけあって、集まったのもその分野には一家言ある人たちばかりだった。自然と毎時間がディベートになっていく。討論している内でも笑いなんかが起こっていた。何人かとはメアドの交換もしたし、飲みにいったりもした。とても楽しかった。


 ナガレと最初に話したのは最後の講義の日、教授も交えた飲み会でだった。ペース早いね、大丈夫? そんな感じだったと思う。隣に座っていたナガレはやっと一杯。私は自分の分と他の子のもちょこちょこもらって、ついでに強めのものにも手を出し掛けていた。確かに胃に何も入れてなかったかもしれない。うん、そうかも。何か食べようかな。じゃあこれ食べなよ。これも、これもと小皿が山盛りになるまで適当に入れていく。おかしな状態の皿に笑いつつひたすら箸を動かした。私は美味い、美味いと半ば変なテンションで繰り返していた。ナガレは自身の食べる合間に、私の皿の減った頃にまた食べ物を入れていく。餌付けしてる気分、と言うので餌付け大歓迎と私は笑った。じゃあ今度何か食べに行こう? 奢るから。うん、いいよ。ナガレが余りにも気軽に言うので私も二つ返事で承諾していた。その飲み会の後からずっと付き合いがあるのはナガレだけだった。


 ナガレは私に餌付けするのが楽しいと言っていたが、約束した以外滅多に食べ物を与えない。あれは酔っていたのかと最近になって気付いた。逆に、会えば菓子をあげる私が、餌付けをしているようだ。このお菓子もおいしいね。ナガレはそう言って笑う。その笑顔を見て思うのは、(ナガレって女の子だよねぇ?)ということだった。数年一緒にいて分からないのかというところだが本当に不思議なんだからしょうがない。


 女性にしては直線的な体で、当初は男の人だと思っていた。麻っぽい素材や木綿のシャツに綿パン姿が多かった。女性ものみたいに体の線が出る感じじゃなくて、少しゆるめのシルエットばかりで。だけど顔立ちは男性にしては柔らかいものだった。声は、これも女性にしては低く、男性にしては高い。喉元に注目してみてもはっきりしない。痩せているからかでっぱって見えるが、それと分かるほど顕著でもない。月に一度は腰回りが丸みを帯ることがあれば、びっくりするぐらい筋肉の硬さを感じさせることもある。私はその内考えることをやめてしまった。今は目の前にある飴玉の袋を前にしてどれを食べようか悩むことで一杯だ。ひょいっと肉の薄い節くれだった手が飴を一つさらっていく。おいしいね、と片頬を膨らませながらナガレは笑っていた。


ナガレ 了


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