第3話:七人の子供たち


「へえ、あなたが副会長やることになったんだ!」
「素晴らしい運動神経の持ち主ってきいてるわ。」
「は、はあ……」
 萌はそう言うしかなかった。副会長就任すぐに、生徒会室に二人の女子生徒が入ってきた。今萌が話しているのはその二人だ。
 元気な女子生徒は二年生で、真っ白なボブヘアに紫色の目をしていて、名前はユキという。そして二年生にして、風紀委員長をしている。
 もう一人の女子生徒はユキと同じく二年生で、朱色の長髪に同じ色の目をしていて、名前は泉という。ちなみに放送部部長をしているらしい。

「萌ちゃんって呼んでいいかな?」
「あ、はい」
「それにしてもリカさん強引だったんでしょう?」
「えっ」
「リカさん強引なところあるよね! 萌ちゃんの生徒会室入りの話もあんまり相談せずに決めたし」
「色々あるのに、ミキさんの言うことすら聞かなかったものね」
「怜さんと茂さんはリカさんの言うことに滅多に反対しないしねー」
「まあ、誰が反対してもリカさんは止まらないし、悪いことにはならないからいいのだけど」
 話し込んだ二人に、萌は少しだけ後ずさる。彼女はどうしたらいいのか分からず、助けを求めようとリカを見ようとした時だった。
「じゃあパーティは今夜にするわ。」
「何が、じゃあなの?!」
 にこっと笑うリカに萌はそうツッコんだのだった。


 会議室の机に並べられた豪勢な料理に、萌は唖然とする。

「これ……」
「すごいでしょう? 怜が頑張ってくれたの」
「楽しく作らせてもらったよーさあ好きな席に座って好きなものを食べてね」
「あれ? 茂さんが居ないような」
「そろそろ来るわ」
「?」
リカが言った時、廊下を走る音がして扉が開いた。そこには全力疾走したのであろう茂が、ゼエゼエと息を切らしていた。
「茂、ずいぶんと焦って来たのね」
「リカ、お前が時間通りに来ないとパソコンのデータ全部消すってメール寄越したんだろ! 仕事のデータ消えたら困るんだよ!」
「相変わらずのワーカホリックだねー」
「ふふ、お疲れ様」
「ったく……」
「そういうリカはまさか仕事をここまで持ち込んでないわよね?」
 凛とした声に、萌は既に席に着いている女子生徒を見た。茶色の波打った長髪と同色の目をした女子生徒は三年生のようだ。
「ミキちゃん、流石に持ち込んでないよ」
「どうだか。より重度のワーカホリックなのはリカでしょう。」
「えーそうかな」
「どうせこのパーティで出来なかった分の仕事を徹夜してやるつもりなんでしょうね。そんなのあなたの主治医の私が許さないわ」
「しゅ、主治医……?!」
「嗚呼、あなたが上野萌ね、私はミキ。三年生よ。」
「お医者さんなんですね、凄い!」
「ああ、主治医は言葉のアヤよ。実際は医師じゃないわ」
「へ?」
 ぽかんとする萌を放って、ミキは一口ジュースを飲んだ。それにミキの向かいに座った男子生徒が苦笑し、口を開いた。
「ミキは科学者かな。医者が必要なことにリカちゃんはならないんだ。ミキはリカちゃんの特殊なことを診てるんだよ」
 男子生徒は萌を見て柔らかく言う。空色の瞳と髪の男子生徒はどうやら三年生のようだ。
「あ、あなたは?」
「僕はソラ。三年生なんだ。よろしくね萌ちゃん。ほらルルンも挨拶」
 ソラがミキの隣に座る金髪の女子生徒を見て言う。その女子生徒の髪は手入れをあまりしていないぼさっとした癖毛のボブで、目は青だった。
「うーん? あ、萌ちゃんてキミなんだ! わたしはルルン!三年生で、趣味は何かを作ることだよ!」
「何かを作る?」
「機械類! 人形とかぬいぐるみも作れるよ!」
「凄い……」
「あ、ソラそこの料理取ってー!」
「いいよ」
「ルルンは兄を使わずに自分で取りなさい」
「えー!」
「え?」
 萌の声にミキが萌を見て言う。
「なにかしら」
 目つきの悪い目に見られ、萌はしまったと思いながら疑問を口にする。
「あの、すみません。兄って?」
「そのことね。」
「ミキと僕とルルンは三つ子なんだ」
「三つ子?!似てないのに?!」
「ぷはっ正直だね!」
「僕らも最初は疑ったんだよ」
「DNA鑑定でちゃんと証明されたわ」
 静かに言い放つミキに、萌は怖い人だと思いながら呟く。
「へえ…それにしても三つ子かー珍しいですね」
「でもそこに四つ子いるよお?」
 ルルンの台詞に萌は思わず叫ぶ。
「四つ子?! だ、誰が?!」
 あまりの驚き様にソラが苦笑して言った。
「リカちゃんとそこの二人、それに今は居ないけどもう一人だよ。」
「え?」
 ソラが見た先には二人の女子生徒が席についていた。一人はマゼンタ色の長髪と瞳の女子生徒。もう一人は金髪の長髪と瞳の女子生徒だった。
「ローズにセイラ、自己紹介はどうかな?」
「ソラさんありがとう。なかなか自己紹介できる雰囲気にならなくて。ね、ローズ」
「……私はローズ。三年だ。」
「はあ」
「初めまして萌ちゃん。私はセイラ。三年生だけれど、しばらく授業には出ていないの。」
「は、初めまして」
 美しい二人を眺めていた萌は、そこで気がついた。セイラは椅子ではなく車椅子に座っていたのだ。
「あの、足が悪いんですか?」
「ああ、違うわ。体が弱くて移動はローズに手伝ってもらっているの。」
「……セイラ、あまり喋ると体に障る」
「平気よ、大丈夫。」
「そう言ってこの間も倒れただろう」
「その件は心配かけてごめんなさい」
「わかってるなら、いい」
 ローズはそう言うと食事を再開した。セイラさんの前には既に食事が用意されていて、ローズが先にセイラの分をよそっていたことがわかる。
「それでソラさん、もう一人って?」

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