第1話:主人公


ピンポンパンポーン

 授業中に放送の音が聴こえて、少女は教室のスピーカーを見た。プラチナブロンドの足首まであろうかという長い髪が揺れる。高い位置で結んだ髪型は活発な彼女によく似合う。両目は深い青色だ。少女の名前は上野萌(うえの もえ)、明るく活発な中学二年にしては少し身長と頭が足りない女の子だ。
『あー放送できてるかな?できてるね。こんにちは全校生徒の皆さん。生徒会長のリカだよ』
 その台詞が終わった途端に校舎全てを包み込んだのは生徒たちの叫び声だった。大多数生徒は黄色い叫び声を上げて生徒会長の声が聴こえたことに喜び、一部の生徒は生徒会長の声を録音しだし、他の一部の生徒は静かに生徒会長の声に耳を傾けた。全ての生徒に共通するのが生徒会長のリカを嫌っていないということだ。
『先生方、授業中に放送することになって申し訳ありません。それでは本題。皆さん静かにねー』
 生徒会長の指示で生徒は勿論先生も静かになる。それだけ生徒会長は影響力があるのだ。

 生徒会長、野村刀リカ(のむらがたな りか)。十五才という若さで一大企業クークラの理事長をしっかりと務められる手腕を持ち、人柄は少々強引ではあるがリーダーシップに優れる。そんな彼女の外見は老若男女を問わずに誰もが美しいと評価する絶世の美少女。彼女に少しでも関わった全ての人々が、彼女について行くことを望むという都市伝説じみた事実があるほどの、まさに雲の上の存在だ。
『二年の上野萌ちゃん今すぐ生徒会室へ来てね。それじゃあ放送失礼しました』

ピンポンパーンポーン

 クラス中の視線が萌に刺さる。萌は唖然としていた、あの生徒会長が一般生徒である自分の名前を呼んだのだ。しかも呼び出しである。萌は唖然とするしかなかった。
「う、上野、」
 萌は自分を呼んだ先生を見る。頭が全く回っていなかった。
「は、早く行きなさい!お前何かしたのか!?」
「へ、あ、行きます!何もやってません!!」
 萌はそう言うと立ち上がり、全力で校舎を走りだした。
 上野萌、どこか平凡な彼女はただ一つだけ、非凡な特技を持っていた。

ガラッ
「失礼します!」
「上野萌が教室を出て校舎の最上階の生徒会室に着くまで10秒。驚異的な数字だな」
「うわあ、凄いねえ」
 黒髪の美少年と金髪の少女のような美少年がそれぞれ感嘆の声を上げる。
 そう、上野萌は人の域を超えたとまで言われる程の運動能力の持ち主なのだ。
 扉の正面、一番奥の席に座る茶髪の美少女が結果を聞いて満足そうに笑み、楽しそうに口を開いた。
「ようこそ、上野萌ちゃん。生徒会室にいらっしゃい」

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