第5話:わだつみ


「まほ」
「どうしたの、愛」
 まほと呼ばれた長い二つの三つ編みをした黒髪黒目の女子生徒が振り返る。愛と呼ばれた女子生徒は笑ってプリントの提出を求める。まほは鞄からプリントを取り出して愛に渡す。
「これで全員だよ」
「わたしが最後だったんだね」
「そうそう。じゃあ先生に提出してくるね」
「委員長は忙しいね。」
「でも楽しいよー。じゃ、バイバイ」
 去る愛をまほは見送ると、寮への帰路につく。黒い皮の鞄を揺らしながら、今日の夕飯は自炊しようかと考える。それなら買い出ししなければと、献立を決めてスーパーに向かった。


 まほが寮の自室の扉を開く。鍵は当然のように空いていて、それを不思議に思うことなくまほは部屋に入る。朝閉めた鍵が空いているのはおかしいが、まほには合鍵を持つ二人の人物が居た。
「あ、おかえりまほ!」
「おかえりー。ねえ見て見てこの衣装」
「ハク可愛いでしょー!」
「ヨクかっこいいよね」
「ハクお兄ちゃんとヨクお姉ちゃん……また衣装増やしたの……」
 まほがげっそりしていると、ハクとヨクはくるりと回って写真撮ってとまほにせがんだ。
 ハクは白髪に灰色の目をした少年であり、ヨクは長い黒髪黒目の少女で、二人は双子である。彼らが着ている衣装は白とピンクが基調の甘ロリワンピースと黒と紫が基調のパンクである。そのワンピースをハクが着て、男性のパンク衣装をヨクが着ていた。女装と男装であるが、二人は完璧に着こなしている。
 彼らが女装と男装をするようになったのは幼少の頃に自分の選んだ服がたまたま双子の兄弟の方が似合うことを発見してしまい、そのまま相手に着せ合うことになっているからだ。つまりハクの衣装はヨクプロデュース、ヨクの衣装はハクプロデュースなのである。そしてそのまま妹のまほに写真を撮ってもらうのが日課であった。

 まほはカメラを手に取ると、二人にレンズを向けた。
「じゃあ撮るよー」
 まほはパシャリとスイッチを押した。

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