第4話:兄と旅人


 その時会議室の前の廊下で何か重いものが落ちる音がして、萌が声を出して驚く。同じ音に気がついた茂が静かに口を開いた。
「ああ、帰ってきたんだな。」
「茂さん冷静ですね!」
「怜、時斗(ときと)の食事の用意をお願い」
「もう用意したよー」
「流石ね」
 微笑み合うリカと怜に萌が少し見惚れていると、会議室の扉が勢いよく開く。そこには銀髪銀目の美しい男子生徒が怒りを露わにして立っていた。
「リカてめー!」
「あら時斗お帰りなさい。どうだった?」
「お帰りなさいどうだった?じゃねえよ! 俺が何度死にそうになったと……ってコイツ」
「時斗、その子は萌ちゃん。副会長やることになったから」
「っ?!」
 時斗は萌に駆け寄り、強く萌の肩を掴む。
「お前が萌なのか!」
「え、はい?」
 時斗の剣幕に萌は驚いていて、他の生徒達も時斗の行動に注目していた。
「お前に言わなきゃならねえんだよ!お前はこれから」
 その時、言葉の途中で時斗が消えた。唖然とする萌に対して、会議室内の生徒達は当たり前のように食事を再開していた。その中でリカが少し残念そうに口を開く。
「あら、時斗もう行ったのね。食事ぐらい出来ればよかったのだけれど」
 状況が掴めずに動揺する萌を察したらしい怜と茂が、一方はのんびりと一方は冷静に口を開く。
「時斗くんはねー異界に呼ばれたんだよー」
「パラレルワールドかもしれないがな。」
「それは」
 疑問符を浮かべる萌に、リカが穏やかに説明する。
「この世界にはパラレルワールドが存在するの。並行世界、それらは並んで存在している。それとは別に、異界というのはこことは別の世界のこと。」
「?」
「二つの違いは、異界は今いる私たちのこの世界と全く共通点がないこと、パラレルワールドはこの世界の人間と同じ人間が存在する世界ということ。厳密には、パラレルワールドにはこの世界のミキちゃんならパラレルワールドにもミキちゃんに当たる存在が居るということ」
「えっと」
「異界とこちらに共通点は無いが、関わりが無いわけではない。」
「異界とパラレルワールドなら、パラレルワールドに行く方が簡単ね。」
「ええっと?」
 全く頭が追いつかない萌に、その話また今度にしようと、怜が席につくよう誘導した。さあ食べてと笑う怜に、萌は怜がよそった食事を口に運ぶ。そしてパッと目を輝かせた。
「美味しい!」
「ふふ、ありがとう」
「ほんとに美味しいです!」
 萌が食事をしていると扉が開いた。萌がその音に反応して今度は誰だろうと扉の方を見ると、立っていたのはプラチナブロンドの髪と空色の目をした男子生徒。萌は食べ物をゴクリと飲み込んだ。
「リカさん、パーティはここでいいのか」
「在兄?!」
「な、萌?!」
 そう、少年は上野在という名の萌の兄だった。目を白黒させる萌と在。先に回復したのは在だった。
「リカさん! これはどういうことなんだよ!」
「在君なら分かるでしょう?」
「萌が副会長ってことなのか?!」
「それ以外に何があるの?」
「何で」
「理由はちゃんとあるわ」
 在は訝しげに本当なのかと尋ねた。リカはただ笑んでいた。言う気がないことを在は察すると、席に着いた。全員が食事の手を止めてリカを見た。
「さあ、萌ちゃんと会ってほしい人が揃ったわ」
「全員席に着いたな」
「今夜はみんな楽しんでねー」
「今宵は日常の忙しさを忘れて、楽しみましょう」
 リカの笑顔を見た全員は食事を再開したのだった。

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