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▼ 02

 昔の手に飴玉を無が一つ転がした。食べてごらんと無は言うが、昔はそれを近くにあった新聞紙を丁寧に破くとまたそれを丁寧に扱って飴玉を包み、ゴミ箱へと捨てた。

「いやはや潔いのは良い事だ。」
「お前それ相当嫌われてないか。」
 ははは、はははと楽しそうな無に、有は心底気味悪そうな顔をした。いや何と無は笑い声を止めて言う。
「嫌われているということは中々に面白いよ。」
「お前本当に気持ち悪いな。」
「ははは、ははは。」
 それで、と有は本を差し出す。無は紅い目を丸くして動きを止める。有はそれを見て溜息を吐いた。
「これが入用なんだろう。さっさと持っていけ貸し賃は二円だ。」
「ふむ。私の懐事情は暴露ているようだな。」
「そうか、そんなつもりは特になかったぞ。」
 だってなあと有は茶色の髪を揺らし、瑠璃色の目を伏せて言う。妖なんぞ無一文が普通だろうと。
「本屋をしている俺が言うのもおかしな話だけどな。」
「そうか、サルは器用ということだな、なるほどなるほど。」
「少なくともお前よりは器用に生きてるさ。」
 有はその性格に見合わない派手な羽織を揺らしたかと思うと、ちぎったわら半紙に安物のペンを走らせた。それはどうやら領収証のようなので、無は諦めたようにため息を吐くと懐の小銭入れから二円分の小銭を出した。

 有が小銭を受け取り、無が本を受け取ると、無はふとした様にそういえばと呟いた。
「此処はいつから貸本屋になったんだ。」
「なったつもりは微塵も無いぞ。」
 そう言った有は、暗にお前だからさと諦めた様子をしていた。




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