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▼ ノグレーの日常

 弟子をまだ持たぬノグレーの朝は早い。
 むくりとベッドから起き上がると、手早く着替えをする。白いカットソーにグレーのズボン、赤い宝石のボタンがついた、スミレ色のローブ。靴下とローブと同じ宝石が埋め込まれた革靴を履けば、次は長い髪をブラシで梳かし、赤い宝石で飾られた赤い紐で髪を下方で結った。
 そんな彼の隣にコトコトとやって来たのはノグレーのペットである魔物、カーバンクルのインだ。
 インに待ってなさいと告げたノグレーは倉庫に向かうと干し肉を一切れ持って台所に向かい、適当に刻むと皿に盛った。そしてその皿を床に置くと、インがもそもそと食事を始めた。それを見たノグレーはよしと気を良くし、己の朝食を作る。ベーコンにスクランブルエッグ、羊のミルクに温めたライ麦パン。それらをトレーに乗せて机に向かうと、昨日の魔法研究の名残りが残ったままの机に適当な場所を作って椅子に座った。
 朝食を食べると食器を洗い、彼は魔法使いらしく魔法の研究を始めた。魔法使い、それはこの世で摩訶不思議な法を使う者。ノグレーはその銀の髪と赤い目を忌み嫌って両親に家に閉じ込められて育っていたところを、師匠の魔法使いが両親を殺したことで魔法使いの弟子となり、今では独り立ちした魔法使いだ。ちなみに師匠はノグレーが独り立ちした後に人を殺したことが魔法院にバレて法に触れ、既に死刑にされている。
 ノグレーの得意な魔法は銀と宝石を使う魔法だ。ちなみに特別不得意な魔法は無いが、魔法薬作りは臭いがきつくて鍋を混ぜるのが面倒だからと嫌っていたりする。
 今の研究は他の魔法使いから頼まれた新たな魔法装飾のメインとなる魔法宝石のデザインだ。ああでもないこうでもないと羊皮紙にガリガリと羽ペンで字や図面を書いていると、インが彼のローブを引っ張った。
「何よイン、今は忙しいの。後にしなさい」
 しかしインはローブを引っ張るのを止めない。まったくと悪態をつきながら窓を見れば、コンコンと白いフクロウがそのクチバシで硝子戸を叩いていた。ああ嫌だわとノグレーが窓を開けばフクロウはボンッと白い封筒に変わり、魔法院の印が押されたそれをビリっと苛立った様子で開けば、何のことはない、早く弟子を取れとのお達しだった。

「だから、弟子が取れるならとっくに取ってるわよ!!」
 ノグレーはふんっと手に魔力を込めてスミレ色の炎で手紙を焼き払うと、ぱんぱんと手を叩いて灰を落とし、再び研究へと戻ったのだった。




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