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 くたびれた町、銀色の髪を揺らしながら、ガラス細工師の青年はひょいと軽い調子で民家へ足を踏み入れた。
 先生、先生いますか。そう呼びかけると、不機嫌そうな仏頂面をした初老の男性が顔を出した。しかし男性のその顔に驚くことなく、青年は手に持っていた鍋の蓋を開けて中身を見せる。
「ハヅキ先生、これ近所のおばさんがどうぞだってさ。煮付けだって」
「いらん」
「そう言わずに。みんな心配してるんですよ」
 頑なに煮物を受け取ろうとしない男性に、青年はため息一つで諦めて、まあ自分が食べますよと鍋に蓋をした。
 そしてふと辺りを見回し、あれと不思議そうにした。
「今日はあの獏が居ないんですね」
「ああそうだな。無にも都合がある」
 いつもいるわけじゃ無いさと言われた青年は、俺がここに来るといつも居るのになあと首を傾げた。

 そんな青年を男性はぐるりと観察すると、少し待てと言い、部屋の戸棚からなにやら絵が描かれた木の板をひょいと取り出して青年に手渡した。何ですかこれと青年が訝しげに受け取ると、それを割れと男性が指示する。青年はまあいいですけどと言いながら、音を立てて木の板を割った。途端にぶわりと空気が揺れる。青年はハッとした様子で男性を見上げた。男性はハアと面倒そうに口を開いた。
「変なものを連れて来るんじゃない」
「あ、ありがとうございます」
 いつもこうやって助けてくれたら良いのにと青年が言うと、男性はいつも無がなんとかするだろうと呟いた。
「無は何だかんだでお前についてきたモノを食べるのが好きらしいからな」
「エエ、妖なんかに助けられるのイヤですよ」
「そう言うな。大体無はあれでいて複雑なんだ」
 何ですかそれと青年が不思議そうに首を傾げたが、男性は青年に向けてサッサと帰れと言い放ち、部屋の奥へと引っ込んでしまったのだった。




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