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 少女が居た。その子は高名な呪術師の一族の子供であり、母親はとても優秀な呪術師だった。父親は入り婿で、呪術の才能を一つも持ってはいなかったが、仕事で家を空けがちの妻に代わって娘である少女を慈しんだ。
 赤ん坊だった少女はすくすくと育った。七歳の誕生日を迎えるまでは、何事も彼女に起こらなかった。

 そう、七歳の誕生日を迎える直前の、その夜。寝ていた少女は強い光に目が覚めた。
 母親は仕事に出かけ、父親は家事を片付けていた。なので少女が一人で眠っていた和室、その中にその強い光は天井から降りてきたようだった。
 上半身を起こした少女は長い茶色の髪を揺らして両手を光に晒した。綺麗だと、少女は感じた様子だった。
 しかし光がやがて触手のように柔らかな棒状を少女に伸ばした。その先がまるで人の手のひらのようになるのを少女は見守り、やがてその指先が少女の眉間に触れた。

 それは“神の祝福”だと誰かが言った。



 少女が目を開く。畳敷きのそこで、布団に寝ていた少女は己の頭を撫でる男を見上げる。その男は柔らかな笑みを浮かべ、悲しみの目をして少女に触れていた。
「夢を見たわ」
 少女が言うと男はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「そうかい、そうかい。それは、どんな夢だったんだい」
 男は布団に広がる少女の長い髪を撫でた。少女はそれを気にせず、ゆっくりと言葉を発した。
「もう知ってることだったわ」
 男は目を一度閉じる。また開こうとする目が開ききる前に、少女は極めて平坦な声を上げた。
「けれどそうね、ずっと哀れで愚かな女の子だったわ」
 すると男は目を見開き、黒くて艶のある髪を揺らして、笑った。
「それはそれは、それなら、いいさ」
 昔よ昔よ、キミは本当に当たりだね、と続けた男はクスクスと笑い続けた。ただし、その目がいつまでも悲しみの目をしていたことを、無表情の少女は気がついていたのだった。




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