マツ→(←)ミナ/愛を語らうには長すぎた/友情出演、エリカさん


 僕らにさよならは無く。

 またね、いつか会いましょう。そんな甘やかな別れを、僕らは繰り返す。

 いくら何でもいつか会えなくなりますよ。ジムリーダーの会合の後、声をかけてくれたくさタイプのエキスパートに、マツバはタレ目をゆるゆると緩ませた。

 そんなことは分かっている。マツバと彼との関係は古き友でしかなく、彼はいつだって地方をまたいでまで駆け抜ける風のような人だ。
「捕まえられないよ」
 マツバはエリカに言う。分かりません。エリカは応えた。小さな手をたおやかに胸に乗せ、マツバをじいと見上げる。彼女は芯の強い女性だった。
「いつか、後悔します」
 誰とは言わない。エリカにとっても古き仲間が彼であることは、分かりきっていた。

「こんにちは、マツバ!」
「やあ、こんにちは。今回は早かったね」
「学会に用があってな。どうしても参加しろと上から言われたんだ」
「そう。時間はあるの?」
「明日だから時間はあるな」
 あ、これ手土産だぜ。そう言われて渡されたのはホウエンの温泉まんじゅうで、この古き友はどこまで足を伸ばしたのかと呆れた。
 まあ、自分がホウホウを求めてこの町に留まることと、同じことだろう。彼は可能性の高い場所を渡り歩いているだけに過ぎない。マツバとて同じだ。
 ゴーストタイプが住まう故に肌寒いマツバの家。修行を経てその寒さに慣れたマツバはともかく、彼にとっては過ごし辛いだろうに。そうは思うものの、言いはしなかった。彼が本当にマツバの元から去る日を早めるわけにはいかなかった。
「マツバ、また何か考え事か?」
 ムウマージと茶を淹れたぞ。そう言った彼の手には湯呑があった。受け取ると、ほっと温かい緑茶が入っていた。いたずら好きなムウマージだが、彼にはよく懐いているらしい。マツバのポケモンは皆、彼によく懐いていた。トレーナーとして、こんなに嬉しいことはない。大好きな人の大好きな人は、わたしにとって大好きな人。ムウマージがそうとでも言うように胸を張るので、マツバはくすりと笑ってしまった。
「ミナキくん」
 彼の名を呼ぶ。どうした。柔らかな声と目が返ってくる。ミナキは誰にでも優しい。マツバとて変わらないが、それでも、一等が己だと良かった。己が良かった。
「あのね、ミナキくん」
 きみが買ってきてくれた温泉まんじゅうを食べよう。きっと、緑茶に合うから。そう言った声は震えてなかっただろうか。分からなかった。

 マツバの古っぽい日本屋敷で、ミナキは笑う。太陽よりも美しい、虹とは違う、青みがかった爽やかで、明るい笑顔だった。
「それはきっと合うだろうな!」
 私はきみと食べたくて買ってきたんだ。勿論、パートナーたちの分もあるぜ。そんなミナキの声音はひたすらに楽しそうで、マツバは心地良さに目を細めたのだった。

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