マツミナ/無謀なんて、知らない/前半マツバ視点/後半ミナキ視点/軽く狂ってるふたり/!ほんのりグロテスク注意!


 一握りの砂すら零さずには掴んでいられないのに、周囲はそれを望むのだ。
 例えば、その目の奥の脳みその端っこを手の中に収められたらよかったのだろうか。例えば、その爪の裏の桃色の肉を手の中に収められたらよかったのだろうか。そんな一部を手の中に収めたのなら、皆を安心させてあげられたのだろうか。
 周囲の皆はミナキ君を人生のパートナーとすることに反対しなかったけれど、代わりに僕が彼の手綱を握ることを要求した。それは首輪と言い換えてもいい。皆にとってスイクンを求めて旅をするミナキ君は不安なことで、僕を置いて消えてしまうことをとても恐れていた。
 でもミナキ君は確かに帰ってくる。その確信は確固たるもので、ミナキ君が連絡をきちんととってくれることが証拠ではないだろうか。僕の家(もう二人の家だけれど)に帰ってくる頻度だってずっと高くなった。だから僕はミナキ君が僕から離れるなんて不安はない。けれど皆は同じようには思ってくれないのだ。
「どうしたんだマツバ。」
 いつの間にか目の前に立っていたミナキ君に声をかけられる。驚きながら、帰ってくるとの連絡はなかったのにと思っているとミナキ君はクスクスと笑う。
「近くまで来たからな。」
 その言葉に、嗚呼やっぱりミナキ君は帰って来てくれるのだと嬉しくなって明るく言う。
「おかえり、ミナキ君。」
 まずは何をお話ししようか。



 私の話は同じ話ばかりでつまらない(あくまで客観的に見ての話だ)だろうに、マツバはいつも私の話を聞いてくれる。それが嬉しくて、寂しくなる。マツバは私を縛ろうとはしてくれない。つまりそう、一言だけを言ってくれればいいのだ。
(行かないでほしいと。)
 その一言で私は踏ん切りがつくのに、マツバはいつまでも私を縛らずに私に選択肢を差し出してくれている。それは嬉しくて、苦しい。自由を尊重することは寂しさすら含むのだ。
 例えば、その目のような紫水晶を手に取ったり、その爪のような桜貝を手に取ったり。行く先々でマツバのカケラに似たものを見つけては手に取ってしまうぐらいには私はマツバに溺れていて、もう少しでもマツバが重石(おもし)を乗せてくれれば私は愛に溺死してしまえるのだから、どうかそうしてはくれないだろうか。
「そうだ。良い茶菓子があったんだよ。」
 マツバがそう言って立ち上がるものだから、その服の裾を掴む。行かないでと、嗚呼、言えないものだな。
「どうかしたのミナキ君。」
 その言葉の優しさに涙すら零れそうだった。自由とは何と苦しいことなのか。
「ただいま、マツバ。」
 どうか縛り付けてはくれないか。



title by.恒星のルネ

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