マツミナ/雨雲のランプシェード/雨の中で再会


 雨を堪える曇り空の日。時間は正午程。遠くでホーホーの鳴き声がした。縁側で重苦しい空を眺めていた男は思い立ったように立ち上がり、曇天の下へと駆け出した。そんな男を追いかけようとしたゴーストをユキメノコが引き止める。ゴーストが振り返ればユキメノコの隣には兄貴分であるゲンガーが居て、そっと頭を横に振った。
 男はうっすらと暗い街の中を駆け抜ける。男を良く知る町の人々が声をかけても、男はただ会釈するだけにとどめていた。駆けて駆けて、男はどこに向かっているのか。町の中心地を抜けて、反対側へと走る。立ち止まることも振り返ることもなく、無我夢中のようにも見えた。やがて男は自宅から街の中心地を挟んだ向かい側に辿り着く。空が堪えきれなくなった雨粒を吐き出し、男のほおを濡らした。
 立ち止まった男は肩を大きく揺らしていたが、ゆっくりと辺りを見回した頃にはそれもおさまっていた。男が瞬きをし、落胆したように息を吐いた時には雨は本格的に降り出していた。
 ザアザアと落ちる雨は男を濡らし、大地を水浸しにしようとする。幾つもの水溜りができ、その水溜りで街に住むゴース達が遊んでいた。
 男が最後にとでも言うように目を凝らしてぐるりと周囲を見回した時、町の外からもう一人の男が現れた。男は驚き、また現れた男も目を見開いた。
「マツバじゃないか!何をしているんだ。」
「それはこっちのセリフだよ!さあ早くこっちに。」
「わかった。だが、傘はどうしたんだ?」
「まさか雨が降るなんて思わなかったんだ。」
「マツバがか?」
「なにその反応。」
「ああいや、すまない。大した意味はないんだぜ。」
「それならいいけど。」
 男改めマツバが、現れた男改めミナキの右手を引いて走る。ミナキは引かれるがままに走り、雨宿りが出来る屋根の下に移動した。そこは民家であり、その民家の主人である老人がタオルを二人に差し出した。曰く、どうせ家の中には入ろうとしないのだろうマツバさんは昔からそうだから、と。その老人はマツバを赤ん坊の頃から良く知る人だった。タオルは返さなくていいと言った老人にマツバは苦笑し、二人はタオルを受け取ってそのお礼を言った。
 白いタオルで顔や手についた雫を拭き取り、これからどうしようかと話し合う。結果、そこまで長引く雨ではないだろうと結論がでた。つまり、彼らは雨宿りをしようと決めたのだ。
 二人はポツリポツリと会話をする。途切れないのは仲の良さの表れだろうか。彼らは古くからの友人だった。
「それにしても、まさかミナキ君に会えるとは思わなかった。」
「私もだぜ。だってこんなところでマツバに会うなんてこと、今まで無かったからな。」
「そうだね。僕はあまりこの辺りを出歩かないから。」
「今日はどうしていたんだ?」
「さあ……。」
 マツバはそこで微笑み、ミナキは目を丸くした。そしてミナキは明るく笑う。
「きっとかみさまのお導きだな。何かしらの縁だろう。」
「そうかな。」
「ま、理由はなんだっていいと思うが。『そういう時もある』ということだと思うぜ。」
 きらめくような笑顔で語るミナキに、マツバは柔らかな笑顔を返す。
「ミナキ君は優しいね。」
「マツバほどじゃないと思うが。」
 そう言ったミナキの左手から血が滴り落ち、マツバは止血するべくその左腕にタオルを巻きつけた。雨は弱まり、空は明るくなっていた。



title by.さよならの惑星

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