マツミナ/土混じりの爪痕
!グロテスク要素を含みます!
主に流血表現があります。
マツバさんがヤンデレに片足突っ込んでます。


 がり、と。
 手の甲にある爪痕。洗って土を洗い流さなければならない。ミナキ君は自分が付けたのだからと水を入れた桶を持ってこようとするけれど、流水であるべきだろうと断った。
 ひょんな事故だった。土いじりをしていて、ゲンガー達のいたずらで、倒れた時に、ミナキ君の土まみれの白い手の整えられた爪が強く食い込み、がり、と。
 血がぼたぼたと流れる。土に落ちるそれを見てポケモンたちがおろおろと慌てる。ゲンガー達、どくタイプ持ちは急いで離れて、誰か回復技持ちはいないかと鳴き声が飛び交う。そんな中で頭がまともに動く僕は、君たちの中に他者を回復させる技持ちはいないねと思った。
 さて、と移動しようとすればミナキ君が白いタオルとホースを持ってきてそれを僕の手にかざした。まさかと思えば、蛇口の辺りで待機していたスリープが栓を捻って水を出してくれた。ホースから溢れた水の勢いは緩やかで、やさしく僕の手を洗う。土と血液に塗れていた手が元の白を取り戻していく。土を流せたことを確認したミナキ君がスリープに指示し、水が止まった。
 ミナキ君が白いタオルで僕の手に残った水道水を取り除く。洗濯したばかりなのにダメにしてしまったなと思っていれば、タオルが手から離れた。案の定、水道水だけではなく血液で真っ赤になった白いタオルに哀愁を覚えているとミナキ君が流れる血は流しておかないとと呟く。怪我のある手を見れば傷口から血が滲み出たかと思うと、すぐにぼたぼたと流れだした。
 見た感じ、太い血管を傷つけたわけではないだろうから大丈夫だろうと考える。痛みはと聞いたミナキ君に、頭を横に振った。そういえば、いっそ驚くぐらいに痛みはなかった。
 ミナキ君が隣に立ち、ぽつぽつと話しかけてくれる。流血が止まらない限り何も出来ないのだ、せめて暇にならないようにとの配慮だろう。やさしいなあと苦笑してしまった。
 ミナキ君は、なあと言う。
「今日の晩御飯は私が作ろう。明日の朝も、昼も。昼過ぎにはここを立たねばならないからそれまでだが、できることはやろう。」
「いいよ、そんなことしなくても。」
「いや、私が傷つけてしまったんだ。出来る限りのことをしたい。」
「そんなに大したことじゃないよ。」
「そんなわけがないだろう……。」
 ため息を吐いたミナキ君に、そうだろうかと内心で首を捻る。だって、僕はこの傷がすこしばかり嬉しいとすら思うのだ。
 この体にミナキ君の爪痕が残るなんて、幸福とすら思う事だ。
 ミナキ君はまた旅立っていく。ここは止まり木にすらなっているのか危うい場所だ。そんな場所の付属品である僕が、立つ鳥跡を濁さずという言葉のままであるミナキ君の痕跡を体に付けているのだ。ミナキ君が旅立っても僕にはミナキ君の痕跡があるというのだ。
 嗚呼、それはやはり、幸福だ!

 ミナキ君が語りかけてくれる。だから僕は答えた。
「ありがとう、ミナキ君。」
 意味を伝える気持ちなど毛頭もなく言えば、ミナキ君は困った顔をして言う。
「手伝いをすることにか? 私が迷惑をかけたのだから当然のことだぜ。」
 だから感謝の言葉は違うだろう、と。

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