マツミナ/苺の季節にやって来た/限りなく足し算



 苺の季節がやってきた。八百屋に並んだそれに、果物屋の本分なんですけどねなんて店主の言葉を聞く。偶然、小粒ながらも良いものが手に入ったのだと店主は言った。ならばと1パックの購入を決めた。
 苺を引っさげてぶらぶらと帰る。今日は古い付き合いの彼がやって来る日だ。
 昼間の道の影を探して歩くゲンガーに微笑ましく思いながら歩いていれば、空の向こう側に雲が見えた。白くて重いように見えるそれは雪雲だろう。どうりで寒い筈だと思いながら、ゲンガーを呼んで先を急いだ。早めに帰って暖房を付けておきたかった。

 帰宅すればムウマージ達が出迎えてくれた。寒かったでしょうとばかりに労わりの言葉をかけてくれる彼女達にお礼を言って、部屋を温める準備をする。
 すっかり準備が整ったところで苺を台所に置く。そこは暖房を付けていなくて寒いが、果物を保存するには常温が一番だろうと勝手に思っているからだ。
 寒い思いをしてやって来るだろうと思いながら、熱いお茶を淹れてコタツに入る。テレビの電源は入れず、持ち込んでいる資料を読む。それはダンボール一箱分あって、年代別に分類を頼まれたものだ。年末の大掃除に出てきたのだと言った近所のお婆さんは欲しいものがあったらあげるよと言ってくれた。
 読み込んでいると呼び鈴が鳴る。そんな時間かと時計を見れば午後四時。もう夕方だろう。

「去年ぶりだな。」
「そうだね、久しぶり。さあ上がって。」
 鼻を赤くしてやって来た彼ことミナキ君は薄い茶色の髪を揺らして家の中に入った。
 台所へ向かって熱いお茶と苺を準備する。とは言ってもヘタは取らず、皿に盛るだけ、だけど。
 コタツのある居間に入れば、ミナキ君はポケモン達を出してコタツに入っていた。脱いで畳まれている外套には雪の欠片が見えた。雪が降っているのか、もしくは降っていたのか。
 苺とお茶を置けば感嘆の声が発せられる。苺の季節かと笑う彼に肯定の言葉を渡して、まずはポケモン達に一つずつ渡す。全員に渡ったのを確認して、僕らも手に取りいただきますと食べた。みずみずしくて甘みの強いそれは店主の言う通りに良い苺だった。

 苺を食べてお茶で一息つくと、突然ミナキ君がコタツから出た。どうしたのかと思っていれば、彼は姿勢を正して言う。
「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします。」
 改まったその言葉に驚けば、僕らはこういう挨拶を大切にするのだろうと疑問符を付けて言われてしまう。それはそうだけどと僕は苦笑する。
「そんなに改まらなくてもいいんだよ。堅苦しい挨拶をする間柄でもないんだから。」
 そういうものかと言うミナキ君に、僕は笑う。
「そういうものだよ。」

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