マツミナ/初秋の夜中


 眠れない夜だった。遠くでホーホーの声がして、庭で密かに遊ぶゴーストポケモン達の小さな笑い声がした。そして僕はひとり、布団の中。
 どうにも眠れないと布団から抜け出し、静かに居間に向かう。すると台所の方から明かりが漏れていた。電気の消し忘れにしては人の気配があったので、この家のもう一人の住民を思い出す。少し心配になって台所へと向かった。
 彼は小さな鍋をかき混ぜているようだった。そしてその近くにいたゴーストに肩をつつかれてこちらに気がつく。
「おや、どうしたんだマツバ」
 それはこっちのセリフだよ、と笑いかけた。

「二杯分作っていて良かった」
 そう言って差し出してくれたのはマグカップに入ったココアだった。温かいそれを片手鍋で作っていたらしい。ゴーストにはおやつのヒメリのみを渡し、二人と一体で夜中のお茶会だ。
 眠れない夜にはよく作るのだとミナキ君は笑った。その目は懐かしむように優しくて、思い出があるのだねと返した。ミナキ君は祖父がよく作ってくれたのだと言い、明日の朝食は何にしようかと話題を出した。もうかいと言えば、寝てしまえばすぐだと笑顔で言われる。それもそうだと僕はココアを飲んだ。それはほんのり甘くて少し苦い。大人の味だなと思っていると、ミナキ君は気にせず朝ごはんの献立をああでもないこうでもないと話していた。
「炊飯器の予約はしてあるから和食なのは確定だろう。味噌汁と、あ、味噌汁に何を入れるか……」
 ふんふんと口遊むように呟きながら考えている姿は中々見ていて面白い。ヒメリのみを食べ終えたゴーストも同じらしく、声を出さずにケラケラと笑っていた。それを見ているとミナキ君がこちら見て、マツバはサツマイモは好きかと聞かれた。なのでそれなりにと答えれば、実はと口を開く。
「向かいのおばさんからサツマイモもいただいたのだが、わりと沢山あったんだ。夜だけじゃ消費出来ないだろうから朝にもと思ってな」
「サツマイモは保存がそれなりに出来たと思うけど」
「それでも新鮮なうちに食べたいだろう」
 決めつけているようで伺うような声色に、そうだねと微笑みを返す。ミナキ君は嬉しそうに、ならば朝ごはんの炒め物にサツマイモを入れようと話す。そうこうしているうちにマグカップは空になっていた。ゴーストがふらふらと眠そうだ。僕とミナキ君は目を合わせ、笑い合うとゴーストにおやすみと挨拶をする。ゴーストはそれを聞くと一声鳴いて、そろそろと何時もの寝床に向かった。僕は洗い物をしようとして、ミナキ君に明日はジム戦があるだろうと止められた。引きそうにないそれに、それならばおやすみと部屋を出る。その直前のミナキ君はあくびを噛み締めていたのでそれに少しだけ笑みが零れ、ふわりと眠気がやって来る。うつったなあなんて考えながら、今度こそ安眠する為に布団に潜り込んだ。
(よく眠れそうだ)
 朝ごはんにはミナキ君が起こしてくれるだろう。

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