あなたの成長記/マツミナ
!二人の過去捏造!
いつにも増して捏造甚だしいですすみません
!人が亡くなった表現があります!





 カラカラと子供がおもちゃで遊ぶ音がする。その子供の祖母が微笑みながら子供に話しかけていた。ふと、マツバにはそういうことがあったのだろうかと思った。子供の頃に音の鳴るおもちゃで遊び、それを見守る祖母。そんな記憶があるのだろうかと思った。
 私の父もマツバの父も厳格な方だ。私は父と顔なぞ殆ど合わせず、悲しげに許しを請う母と、優しくて時々厳しい祖父が居た。マツバは父とあまりうまくいかないまま、死別したそうだ。母親は生活のために一日中働き、ずっと祖父の家に居たという。そんなマツバの祖父は決して優しい人ではなかった。私はその人を見たことがある。私から見たマツバの祖父はいつも穏やかで、博愛主義。そしてなによりホウオウへ真摯に向き合う僧侶だった。マツバの祖父はいち早くマツバの才能に気がつき、修験者への道を示し、修行のこととなると誰よりも厳しくマツバに接した。そんなマツバの祖父が、元々やっていた僧侶の仕事とマツバへの指導で、マツバとの優しい時間が極端に少なくなったのは当然だった。それに幼いマツバはそれに耐えられず、ホウオウへと傾倒していった。
 そうして、そんなマツバが我に返ったのは祖父が亡くなった時だった。その場に居た私はそれをよく覚えている。祖父に構ってもらえなかった寂しさが根源にあったホウオウへの崇敬が揺らぎ、祖父への思いが溢れ、マツバはただただ泣いた。
 マツバの祖父が亡くなってから、マツバの母親は過労による体調不良が続いた。結局、仕事を止めることとなり、マツバはその時にジムリーダーに勧誘された。その頃のマツバは街の人から一目置かれるバトルセンスと修験者としての信頼があった。たとえその精神が平静を保つのでいっぱいいっぱいであったとしても。
 それから私はマツバと共に過ごした。マツバはかつての祖父の家の中でいつも情緒不安定だった。私はただ身の回りの世話を手伝った。食事を作り、風呂を沸かし、掃除をした。マツバはぼんやりとしては突然喚き、泣いた。その頃のマツバはホウオウのことを全く会話に出さなかった。かつてはあんなにホウオウについて語っていたというのに、である。

 月日が流れると、マツバは徐々に回復していった。家の中で突然ヒステリーを起こすことが少なくなり、一日中ぼんやりとして過ごしていた。やがてゲンガー達や私に下手な笑顔を見せるようになった。
 そんなある日、マツバは祖父の家を出て行くといった。私は、時が来たのだなと思い、賛成した。

 引っ越した先は祖父の家と同じ平屋の一軒家だったが、あの家よりは小さく、なにより庭からスズの塔が見えた。マツバの精神状態は引っ越してから見違えるように良くなっていった。マツバは祖父の死とそれに付属する様々なことと向き合えたのだ。

 それからのことは蛇足だろう。なにせ私がスイクンへの憧れを募らせマツバの家を飛び出たぐらいしか大きな出来事のない平和な時間だったからだ。

 そして現在、私はマツバの家に居た。スイクンは1人の小さな勇者を選んだ。私はスイクンを求めて旅をするのをやめた。そして飛び出してからも旅の途中に時々立ち寄っていたマツバの家に、また住んでいる。
「どうしたんだい」
 マツバが庭で遊びまわるゲンガーから目を離して言った。私は何でもないさと笑ってから言うのだ。
「今、マツバは幸せか?」
 マツバは目を丸くして、それからあの頃からは考えられないほど上手になった、本当に幸せだという笑顔をした。

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