子供の頃の約束。いつかまた会おうね。去り行く友への、愛しい言葉。


『原点』


いつになく懐かしい夢を見た。実際にあった過去のそれは思い出として美化されて、最早それは現実味を失っていた。ただ、それは現実にあったことが元なのだと念入りに脳に刻んだ。
少し紅茶の多いミルクティーのような髪色と青い目をした思い出の彼は間違いなくミナキくんで、昔からキラキラとしていたなと笑みが零れる。それは恋情からくる輝きではなく、目的目標憧れを明確に持った生き様への一般的な評価だ。誰だって夢を追いかけて努力する人間を眩しいと思うだろう。それと同じだ。
長く修験者として生きる僕の幼い頃なんて人々は目も当てられないだろう。それは酷い扱いをされていてボロボロだったとはではなく、幼い頃の僕は修行に意味を見出せずにいた。ホウオウへの情が無く、ただ大人に定められた目的のために修行に明け暮れる僕は目も当てられない程に人にとって不幸な人間だった。
そんな僕がホウオウに特別な感情を抱くようになったのはミナキくんが原因だった。彼が語るスイクン伝説はきらきらとしていて、僕は眩しいと思いながら聞いていた。何度か聞いていると、僕は伝説に興味が湧いた。そこからは芋づる式で、祖父から教えられていたホウオウへと最終的に回帰し、僕はホウオウに認められることに熱意を覚えるようになった。
だから、今の僕がいるのはミナキくんのお陰だろう。結局僕はホウオウに認められることを諦めて、ホウオウのいる情景さえ見られればよいと思うようになったけれど、やっぱりそれもミナキくんのお陰だ。
僕を変えてくれるのはいつだってミナキくんなのだ。

幼い頃に出会ったことをミナキくんは覚えていない。でもそれでも構わなかった。ミナキくんはミナキくんであり、ミナキくんはどんなミナキくんでも僕を変えてくれる。だから幼い頃の願い事のような約束が叶ったとか、そんなことは思わなかった。ただ、また会えたことに感謝した。

ミナキくんはスイクンを追いかけるのをやめた。僕はホウオウの居る情景を見た。何もかもを終えた僕らは共に過ごした。ささやかな日々の中で、僕は修行を続け、ミナキくんはぼうっとする時間を過ごした。やがてミナキくんは良く回る頭で大学教授となり、忙しく働くようになった。それでもミナキくんは僕の家にやって来る。最早住み込んでいるかのようだが、ミナキくんは家を別に持っていた。
そして再会するたびに思うのだ。

(ありがとう、ミナキくん)

きみは今の僕の原点だ。

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