からからと女の子が夕の街を音を鳴らして駆けてゆく。その姿は桃色に染められた浴衣に黄色い帯。駆けて行った先には同じ年頃の女の子。にわかに沸き立つ街。今日は、祭りだ。

ただいまとジムから自宅に帰ると、ミナキくんがおかえりと出迎えてくれた。

「夕飯の用意はこれからしようかと思っていたんだ。今日はそうめんにしよう」
「ねえ、ミナキくん」

僕の呼びかけに、ミナキくんはなんだマツバと返事をした。その背中に言葉を投げる。祭りに行こうと。



ミナキくんに紺色の浴衣を着せて、自分は深紫色の浴衣を着て街へ繰り出す。楽しそうなゲンガーを左に、スリープに食べ物を勧めるミナキくんを右に祭りを楽しむ。風鈴の音と、人々のざわめきが賑やかで心を浮き立たせる。ミナキくんと祭りに来れたのはほんの数回だろう。スイクンを探し求めていたミナキくんは一箇所にとどまらなかった。けれど今は違って、僕の家を拠点にしてくれていた。
スリープに真っ赤なりんご飴を買い与えるミナキくんは楽しそうで、楽しんでいることに安心した。ひゅるると音がしたので空を見上げると試しの花火が上がっていた。煙が流れるのを確認して、今日の花火は綺麗だろうと判断するとミナキくんに花火はどこで見たいかと聞いた。

「どこと言われても、私はよく見える場所なんて分からないが」
「そう。なら外がいい?屋内がいい?」
「オススメはあるか?」
「どちらも良いところがあるさ」

ミナキくんは少し考えて屋内がいいと言った。
僕とゲンガー、ミナキくんにスリープが建物の中に入ると女将さんが部屋に案内してくれた。料理を出すこの店は夏の花火だって魅力なのだ。マツバさんなら自由に居てくれて構わないと言ってくれる言葉に甘えさせてもらい、部屋に入る。その部屋は他の部屋のように良質な部屋ではないが、大きな窓がある部屋だった。ミナキくんはマルマインとゴーストを出して窓の外を指差す。花火が上がると説明していて、ポケモン達のために屋内を選択したのだと分かった。自分もゲンガー以外の連れてきていたポケモンを出して、花火のことを教えた。この子達は毎年だからミナキくんのポケモン達のように目をキラキラとすることはなかったが、それでも楽しみそうだった。

やがて日が沈み、花火が打ち上がる音がし出す。窓の近くに寄って、皆で花火を見上げた。赤に緑に黄色に白。色とりどりの火が美しい。職人が丹精込めて作り出した一瞬の命に見惚れていると花火はあっという間だった。元々沢山の花火を上げる祭りでもなかったから尚更だ。綺麗だったねとはしゃぐポケモン達を微笑ましく見ているとミナキくんが口を開いた。

「来年もまた見よう」

僕はその温かい言葉に、そうだねと相槌を打った。

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