だあれだ。と目を隠す遊びがある。幼い頃、きっと誰もが友人や家族とし合ったたわいも無い遊びであろう。

「だあれだ」

私の目を隠してそう彼が問うてくる。この家に現在居る人間なんて私以外に1人しかいないのだから誰かなんて分かりきっているものの、何となく答えるのがまどろこしくてそのまま答えずに座り続けた。

「答えてくれないの」

クスクスと彼のゴーストポケモン達が笑う。一方、彼の声は少しだけ不満気だ。機嫌を損ねるのは本意で無いので、さあ答えを言おうと口を開いてみた。

「ま、」
「嗚呼、やっぱり、だめ」
「?」

彼の言葉に、私はただただ疑問符を浮かべた。それはどういう事なのか。誰だと聞かれたのだから誰なのか答えるのが、この遊びではないのだろうか。

「もう少しだけ」
「何だ?」
「ミナキくんは忙しなくし過ぎ」
「そんな事ないと思うが」
「今さっきだって古書を読んでいたじゃない」

真っ暗な視界で、それは仕方ないじゃないかという言葉を飲み込んだ。スイクンを渇望している私は少しだって時間を無駄に過ごしたくないのだ。確かに休みも必要だから、今さっきように既に何度も読み返した古書を読んで休んでいる。だから、ずっと忙しなくしているつもりはない。ゆっくりしているわけでもないのは当然として。

「あのねえ、ミナキくんって休み下手すぎ。たまにはこうやって何も見ずにゆっくり休みなよ」
「それは時間が勿体無くないか」

スイクンは待ってはくれない、と言外に伝えると彼は私の後ろでため息を吐いた。

「スイクンを探し求めるのもいいけれど、体を壊すよ」
「そんな事はないと思うが」
「ミナキくんがそう思っていても、僕ら第三者から見て無理をし過ぎ。さあ、大人しく休もうか」

そっと目隠しの手を離され、私は眩しさを覚えながら後ろを振り向くと、やけににこやかな彼が居た。するりと手元から古書が抜き取られる。間違いなく彼の相棒の仕業だ。

「僕は千里眼の為にも鍛えているとはいえ、しっかり休むことがとても大切なんだ。だからその事に関してはミナキくんよりちゃあんと知ってるよ」

だからまずは暖かいお茶を飲んで落ち着こう、と席を立つ彼は笑みを優しいものに変えていた。それにホッとしながら、お茶が淹れ終えるまでに何をしていればいいのだろうと思う。きっと何もしないというのが正解なのだろうが、そんなことに慣れない私は出来る筈もなく。困ったなあと思っていたら彼の相棒達がクスクス笑いながら障子を開けた。そこには硝子戸越しの庭。ふと、植えられた紅葉や銀杏が色付いているのを改めて見て、そういえば今は秋だったのかと思った。彼の相棒達は硝子戸の近くでふわふわゆらゆらと遊んでいた。そうだ、彼らと庭を眺めていよう。それがいい。きっとそれなら彼も満足する行動だろうから。それに。

(とても、優しい気持ちになれる)

彼らと紅葉の鮮やかな対比がとても美しく、暗闇で聴いたら不気味であろう笑い声も真昼間の今ならなんとも微笑ましかった。





めかくし
(お茶が入ったよ)
(ありがとう)

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