マツミナ
謎パラレル、SFもどき和風もどき
預言者マツバと水神の禰宜ミナキ
「キミが水神の禰宜(ねぎ)でなければ良かったのかもしれない」
マツバの言葉に、ミナキは静かに頭を振った。
「それは変えられない運命(さだめ)だと、マツバが1番知っている筈だろう」
ミナキはゆっくりとマツバと視線を交えた。
先見の預言者たるマツバはミナキの運命を預言した張本人だった。ミナキは周りに並べられた預言により水神の禰宜となり、その身を水神に捧げる。
「キミがその身を刃で貫くのは次の満月の晩だ」
「なんだ、もう明日じゃあないか」
ころころと笑うミナキに、マツバは悔し気に唇を噛み締めた。ミナキの預言に逆らわぬ姿勢に、マツバはただ悔しさを覚えた。
「どうしてキミは抗わない」
「そんなこと、マツバは知っているだろう?」
「そんなにも、そんなにも水神を信仰するのか!」
「私にとって水神様は憧れなんだ。」
うっとりとミナキは顔を綻(ほころ)ばせる。
ミナキの水神への信仰は誰の目にも異質だった。それをマツバも知らないことはなかった。だが、命が関わるのならば別だった。まさかこんなに何の戸惑い無く己の死を受け入れるのだと、人為的な死を受け入れるのだとは思わなかったのだ。
「キミは、どうして」
「水神様にこの身を捧げられるなんて、こんな嬉しいことは無いんだ」
「…」
マツバは何時の間にか握りしめていた手を解いた。そして呆然、唖然とするようにぼんやりと口を開いていた。
「僕はキミの足枷にならなかったのかな」
「…そんなことを望んでいたのか?」
「僕はキミの足枷になりたかった。キミを、キミを愛しているから」
マツバの言葉に、ミナキは仕方ない子供を見るように笑う。
「知っているぜ。私もマツバを愛している」
「なら!」
「でもな、マツバ。それでも私は水神様に全てを捧げたい」
「そんな」
ミナキの柔らかな目の中の揺るがぬ意思に、マツバはただ、どうにもならないことを悟った。
(こんなことなら、預言なんてしなければよかった)
(そうすればキミが死ぬ未来を知ることもなかったのに)
(何よりも、死ぬ運命を変えられたのかもしれないのに)
そんなどうしようもない事を考えたマツバを、千里眼などないのにもかかわらず、ミナキは見透かしたように笑った。
「巡り巡る輪廻の中でまた会おうマツバ。」
愛していたことを忘れないよ
(愛してくれてありがとう)
(私は水神様の下へ行くよ)