それは僕にとって盛大なうっかりだった。

修験者としていつも冷静に、あまり感情的に動かないことを念頭に行動するのが僕だ。それをミナキ君はわかっていて、なによりミナキ君もスイクンのことを除けば僕と似たり寄ったりな人だから、安心していたのだろう。冷たい人だと罵ることもなく、崇めることもなく、ミナキ君は僕と一緒に穏やかに過ごしてくれたから、安心し過ぎてしまったのだ。

「マツバ…?」
「え、あ、」

僕は手を元に戻すことも出来ずに焦る。うっかりだ、迂闊だ。僕はまだまだ修行が足りない。

「その…」

ミナキ君の手を握ったのは無意識だった。完全に、思考してのことではなく、ふと違和感に気がついたら、ミナキ君の手を握っていた。僕の焦り具合を分かる人もいるのだろうが、僕にとってはこんなことは初めてというより修行し始めたばかりの幼い頃ぶりで、本当に本当に焦っている。

「マツバ」
「あのね、えっと、ミナキ君これは」
「ゆっくりでいいぞ?」
「う、うん…」

優しいいつものミナキ君に幾分か僕は落ち着く。さてどうしようか、どう言い訳すればミナキ君は納得するのだろうか。頭の良いミナキ君のことだからもう僕に何の意図も無かったことに気がついているかもしれないが、それでも言い訳しないと僕が僕でなくなってしまいそうだ。

「…なあ、マツバ」
「え、あ、なに?」

ミナキ君は少し言い難そうに口を開いた。

「照れてるのか?」
「……え?」

照れてる、とは。誰が、僕が。僕が照れてる、と。
僕は照れた経験が無いに等しい。修行する前ならあったかもしれないが、幼すぎて憶えていない。照れるとは何なのか。とにかく何か言わないといけない。

「て、照れてない、よ」
「いや、でも顔が真っ赤だぜ?鏡見るか?」
「えっ」

そういえば顔が気がついた時から熱い。全く気がつかなかった。

「それに恥ずかしがってるし」
「恥ずっ?!」

いや僕は焦っているのであって恥ずかしいわけでは、ない、と、思う。

「私には照れているように見えるが」
「そ、そう?」

ミナキ君がそう言うならそうなのかもしれない。いやあ、これが照れるということか、ははは。…とてつもなく恥ずかしくなってきた。

「どうしたんだぜマツバ。さらに赤くなって」
「穴があったら入りたい…」
「そうか。それなら手を離したらいいんじゃないか?」
「あ、」

ミナキ君の言葉に僕は思い切り唖然、呆然とする全くその考えに至らなかった。でもそれは。

(何だかもったいない)

うん。じゃない、いやいや、何がもったいないんだ。

「…仕方ないな。」
「え、何か言った?」

ミナキ君に聞き返すと、ミナキ君は穏やかに優しく笑っていた。そして僕の目を見て言う。

「マツバ、“私が手を繋いでいたいから”手を離さないでくれないか?」

その言葉に僕は目を丸くした。

「えっ、え?」
「駄目か?」
「だ、駄目なんかじゃないよ!あ、」
「ふふ、じゃあ繋いでいよう」

すこしばかり悪戯が成功した子供のような顔のミナキ君に、僕は後で愛しのゴーストタイプのポケモン達を押しかけさせようと心に決めた。





無意識に握って照れる
5つの手の繋ぎ方
だいすき!!

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