28

第三者視点


 オレンジ色の髪をした少女が地面に降り立った。かの本丸とは違う日本屋敷に入り、庭の掃き掃除をしていたおばあさんに声をかける。

「おばあちゃん、ただいま」
 少女の声におばあさんがハッと顔を上げた。その目がしっかりと少女を捉えた時、少女は嗚呼と笑った。
「ああ、そうじゃなくて。審神者さん、ただいま」
 その言葉に、おばあさんはくしゃりと顔を歪めて目を潤ませた。
 しばらくの静寂の後、おばあさんは震える声で告げた。
「あなたは、そう、そうなの、私たちは、やっぱり間違えてしまったのね」
「間違いなんかしてないわ。私はA00。人間名、太星ヒカル」
 ほら見てと少女はその場でくるりと回る。セーラー服をはためかせた少女に、おばあさんは頭を振った。
「……いえ、あなたは」
「うん。姿形が同じでも、刀剣男士の一つ一つがそれぞれ違う刀だと語った貴女からすれば、私は姿形が同じで記憶が引き継がれただけの別個体だわ」
「わかっているのね」
「記憶がそのまま引き継がれたから、私は心がある程度育っているの。有益なことだわ。ありがとう」
 にこりと笑みを浮かべた少女に、おばあさんは寂しそうに笑った。
「お礼なんていらないのよ。そう、あなたはこれからどうするの?」
「次の任務が与えられるまでここに居るわ。この屋敷は私たちの家、束の間の夢、そうしてあなたは私たちのおばあちゃんだもの」
「そう……」
 その言葉に、とうとう涙を一粒溢したおばあさんに、少女はそういえばと明るく言った。
「本丸はどうしたの?」
「若い女の子が引き継いだのよ。私はもうあそこにはいけないけれど、文通はしているの」
 結構頻繁なのよ、とおばあさんは言い、あなたも手紙を送るかしらと問いかけた。けれど少女は頭を振る。
「それはいけないことなんでしょう?」
「よくわかっているのね」
 その言葉に、少女は努めてゆっくりと言葉を選ぶように告げた。
「貴女たちの知る太星ヒカルは死んだのだと思う、から」
 その言葉におばあさんは正解だと微笑んだ。
「そう。貴女は別人よ」
 きっぱりと言い切ったおばあさんに、少女は少しだけ目を伏せて、それから首を傾げる。
「……何だか、寂しい、かも」
 その不思議そうな様子に、おばあさんは懐かしそうに目を細めて、優しく笑った。
「ふふ。でもね、大丈夫。私は貴女をきちんと今までと同じように接するわ」
「ありがとう、おばあちゃん」
 少女がぱっと顔を明るくしてはにかむと、おばあさんはええそうよと頷いた。
「ええ、私の大事な家族、娘達の長女。ヒカルさん、おかえりなさい」
 おばあさんがそうして穏やかに笑むと、少女は弾むような声色で返事をした。
「ただいま、おばあちゃん」
 そうして心の底から嬉しそうに笑った少女に、おばあさんもまた優しく微笑んだのだった。

- ナノ -