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夢主視点


 朝だ。ランニングに行かなくては。でもそれよりも胸部がすうと冷えていた。寂しい。すぐに気が付いてしまえば、その気持ちが私を埋め尽くした。寂しい、寂しい。原因が分からないそれが私を蝕んで食い荒らす。痛い、寂しい、寂しいんだ。はらり、涙がこぼれた。
 とたとた。愛染さんの足音が聞こえる。ヒカル、起きてるか。返事が出来ないでいると、愛染さんはごめんなと戸を開いた。そして、ぎょっと驚いた顔になってから、慌てて私に駆け寄った。
「ど、どーしたんだよ!」
 どこか痛いのか、そう聞かれて、私は胸をさする。痛い、口に出せば、愛染さんは石切丸さんを呼びに行こうとした。だけど私はそれを引き止めて、そばにいてほしいと願った。
「どうか、近くに居てください」
 そうすればこの寂しさが埋まるかもしれないから、と。

 涙が止まる。無言でふたり座っていると、やがて朝食時になって獅子王さんが呼びに来た。開かれた戸から顔を出して、ふたりともどうしたんだって笑った。ヒカルが泣いてたと愛染さんが言うと、獅子王さんは驚いて私を見る。私はもう涙は出ないと、寂しさが和らいだと告げて、胸部に手を当てる。痛みも弱まっていた。
「心が痛いんだな」
「こころ?」
 獅子王さんの言葉にそう返せば、そうだと微笑まれた。
「人は寂しいと心がぽっかりと穴空いたみたいになって、酷くなると痛くなるんだ」
 どうしてそんなに寂しいんだ、俺たちはみんな居るぜ。獅子王さんは笑って、私に手を差し伸べた。私はその手に手を重ねて、引っ張られるままに立ち上がる。
「今日の朝餉は焼きジャケだってさ!」
 美味しいものを食べればその寂しいのも埋まるさと獅子王さんは笑って、愛染さんはそりゃいいと楽しそうに笑った。


………


 結局、朝食を食べても、今日はどうにも寂しくて、私はなるべく刀剣男士さん達と共に過ごした。そうすれば少しだけ心というものの痛みが減るから不思議だった。一番一緒にいたのは獅子王さんと愛染さんで、ふたりと一緒に歩いていると、ランニングでもするかという話になって、ジャージにも着替えずに三人で走った。
 そうして夜になった。私は隣部屋の審神者さんの部屋に入る。どうしたのと審神者さんはクスクス笑って、おいでと私を隣に座らせてくれた。
「まだ寂しいの?」
 その言葉に心に手を当ててから頷けば、そっかと審神者さんは言った。
 そしてゆっくりと私の背中をさする。大丈夫、大丈夫と繰り返した。
「大丈夫、私たちはここに居るわ。どこにも行かない。だから安心して」
 寂しいのがどこかに行ってしまいますように。審神者さんはそう言ってふうと息を吐いた。すると白い紙がゆらりと浮いて星の形となってふわふわと空へ飛んでいった。

 ほうらもう寂しくないよ。そう言って微笑むから、私はどうしようもなく、“心”が痛かった。

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