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夢主視点


 今日は買い出しに行くらしい。朝食の場で発表されたその予定に、買い出し当番の一人に決まっているらしい愛染さんが、ヒカルも行くかと声をかけてくれた。審神者さんを見れば、燭台切さんと御手杵さんを指名してから、愛染さんは私のお世話係だと笑っていた。愛染さんがにっと見上げるので、私はそれならと頷いたのだった。

 町に出てから聞いたのだが、買い物は主に調味料らしい。酒は宅配してもらって、醤油や砂糖といった調味料を町で揃えていく。食事当番の燭台切さんは自分で荷物を持ち、御手杵さんもとても多くの調味料を持っていた。私も砂糖を2キログラム抱えて荷物持ちに参加した。愛染さんは塩2キログラムだった。
 帰りの寄り道ではお茶屋さんで団子を食べた。甘くて白いそれは月見団子に似ていると愛染さんが言っていた。

 買い出しから帰ると獅子王さんたちが出迎えてくれた。荷物を皆さんで分けて持ち、台所に運ぶ。鯰尾さんと加州さんは砂糖でお菓子を作ろうかと台所に着くなり調理を始めて、私は愛染さんに手を引かれるままにその菓子作りを手伝った。愛染さんは手伝いになれていて、好きな菓子を自分で作れるようになりたいと笑っていた。
「なあ、ヒカルの好きな菓子は何だ?」
 オレは団子も好きだけど煎餅も好きだと笑っていた。なあ、ヒカルの好きな菓子は。そう言われて、私は頭が真っ白になった。


………


 夜だ。ランニングにはまだ早いけれど、夜だった。私は審神者さんの部屋に居た。審神者さんはどうして私を呼んだのだろう。そう考えていると、審神者さんは昼間に行った演練の報告書をしたためるから待っていてと言った。私は障子近くの部屋の隅で正座した。審神者さんはさらさらと筆とペンを使って書類を書いていく。どういう風に書いているのかは分からないけれど、そこには慣れた様子が見えた。
 それにしても演練とは、不思議なものだった。初めて観させてもらったそれでは獅子王さんがもうひとりいた。敵に現れた獅子王さんに獅子王さんが立ち向かっていく姿はどっちがいつもの獅子王さんで、どっちが相手方の獅子王さんか分からなくなるぐらいに激しい攻防が行われていた。
「不思議だったでしょう」
 審神者さんはいつの間にか書き終えた書類を片付けながら私に言った。戸惑っていたみたいだから呼んだのよ。審神者さんはそう言って笑った。そう、私は戸惑っていた。だってどちらも獅子王さんなのに、どうして×××××××。
「本丸仕えの刀剣男士のみんなはね、本霊からのコピーなの」
 分霊というものよと審神者さんは言った。私は頷く。だから、獅子王さんがふたりいたのか。
 そしてね、大切なのは。審神者さんは微笑んでいた。
「大切なのは、刀剣男士さんたちはコピーであってもそれぞれ違うひとの筈なの」
 個体差とも呼ぶわ。だから、ヒカルちゃんの知る獅子王と向こうの本丸の獅子王は別のひと。私はそう考えているのよ。そして、それがきっと正解なの、と。
 私は目を見開いた。分からない、分からなかった。胸部が痛いほどに鳴る。苦しい。指先までもが震えていた。ぎゅっと手を握りしめる。分からなかった、でも確かに獅子王さんと、向こうの獅子王さんは、違う審神者さんと共にいる、別のひとだった。

 別の、人だったんだ。

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