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第三者視点(途中から夢主視点)


 もう夜が明ける。獅子王は本丸を走り回り、愛染と落ち合った。向こうにいたか。いなかった。そっちは。いなかった。二振りは唇を噛み締めて、手を握りしめる。この本丸に所属する全ての刀剣男士たちが本丸中でヒカルを探していた。しかし見つからない。雪か、それとも朝露か。跡形もなく消えた少女に、皆が混乱していた。
 一旦主さんの部屋に戻ろう。愛染は言った。報告をし、また捜索範囲を増やさなくては。獅子王も真剣な面持ちで頷いた。
 そこへ、ひゅっと飛んできた紙飛行機。主たる審神者の式を獅子王が受け取ると、その紙飛行機を開き、目を見開いた。
 そして走り出した獅子王に、愛染が問いかける。
「どうしたんだよ!」
「ヒカルが、見つかった、かも!」
 愛染は目を見開き、もたつく足で獅子王に続いた。

 審神者の部屋に二振りが辿り着くと、他の刀も集まってきた。そして審神者は言う。
「ヒカルちゃんの部屋に何者かの気配があるの。ヒカルちゃんが居るのか、それ以外の何かがいるのか、分からないから一度皆を集めさせてもらったわ」
 念の為帯刀して来て欲しいと頼む審神者に、刀たちは頷くと急いで部屋に戻り、刀を手に審神者の部屋に戻った。そして全員が揃い、獅子王と愛染を隣に審神者がゆっくりとヒカルの部屋の、戸を開いた。
 ゆっくりと差し込む朝日、暗い部屋が明るくなっていく。布団の中、もぞり、動いた。そしてそれはオレンジ色の髪をさらりと揺らして、起き上がった。
「……おはようございます」
 髪と同じオレンジ色の丸い目を瞬かせて、少女は首を傾げた。

………

 何だか長い時が経った気がする。暗い場所から引きずり出されて、そう、三日月さんという刀に会った。会って、お喋りして、それだけ。それ以上は記憶が薄ぼんやりとしていて、どうにも詳細が分からなかった。
 そう考えていると戸が開く音がした。珍しいことだ。だからもぞもぞと暗い布団から顔を出して、起き上がる。
「……おはようございます」
 何でか刀剣男士さん達が刀を持って勢揃いしている。審神者さんに至っては何故か涙ぐんでいる。どうしたのだろう。首を傾げれば、審神者さんが私に抱きついた。それに続いて、愛染さんと獅子王さんが私の隣に駆け寄って肩やら手やらを触って、異常は無いかと問いかけてくる。何も無いと頭を振れば、愛染さんと獅子王さんはくしゃりと笑った。
 審神者さんは私に抱きついたまま、心配したと泣きながら言った。
「急に消えて、私、貴女が消えたこと気がつかなくて」
「あの、落ち着いてください」
「ごめんね、気がつかなくてごめん。そして、安堵することを許して。どこに消えたのかと恐ろしかった。よかった、また会えて、本当に良かった」
 どうしたらいいのだろう。そう考えながらじっとしていると、言い終えた審神者さんは体を離し、ふふと笑った。
「戸惑った顔をしているわ」
「え、あ、あの」
 あのね、一度見失ってから言うなんて卑怯だと思うけれど。審神者さんはそう言って涙を拭って微笑みながら言った。
「家族だと思っているの。そう、ヒカルちゃんのことよ。私はこの本丸の刀剣男士のみんなを家族だと思ってる。そこにね、ヒカルちゃんも新たに加わってくれたんだと思ってる。ヒカルちゃんはきっと神様からの贈り物。貴女にとっては突然こんなところに来てしまって困っていることだろうけれど、私にとっては来てくれて本当に嬉しいことだと思うの。私だけじゃ無い、刀剣男士のみんなもヒカルちゃんが来てから前より明るくなったわ」
 貴女はきっと、神様からの贈り物。そう繰り返した審神者さんに、私は何を言ったらいいのか分からない。
「家族、ですか」
 ええそうよ、審神者さんは笑った。愛染さんを見ればニッと笑われ、獅子王さんを見上げれば笑みを浮かべて頷かれた。
「家族……」
 その言葉が胸の内に落ちてくる。ひらり、ひらり、落ちてきたのは桜の花びらだろうか。吹けば飛ぶような花びらだろうか。
 それでも、私はその花びらを吹き飛ばそうとは思わなかった。
「ありがとう、ございます」
 頭を下げれば、どうしたのかとみなさん慌てていた。それがどこか、暖かいものに満ちていて、私はただただ頭を下げることしかできなかった。

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