20

夢主視点(途中から第三者視点)


 暗い。目の前は闇。暗くて、明かりはどこにもない。でもどうしてだろう。怖くはなかった。そこで丸くなっていると、ふっと風が吹いた気がした。何だろうと思った瞬間、ぐいと背中を引っ張られて、私は落ちていく。
 落ちて、落ちて、頬を風が切って。叫び声すら上げられない速度で私は落とされる。
 このまま私は地面に叩きつけられてぐしゃぐしゃになるのだろうか。そんなことを考えていたが、途中でふわり、止まった。だから私は目を開く。視界良好、何が見えるのか。

 そこは草原だった。背の低い草は青々としていてみずみずしい。空は夜空で、やけに明るい三日月が浮かんでいる。ここはどこだろう。とりあえず、私が余所者だってことだけはわかるのだけれど。
「其方が太陽の者か」
 声がする。振り返れば後方に男がいた。艶のある紺色の髪、上等な着物、美しいかんばせ。目には三日月が浮かんでいた。
 彼は人畜無害そうに微笑む。
「ふむ、幼い姿をしているのだな」
「貴方は誰ですか」
「俺か、俺は三日月宗近」
 ふわり強い何かが空気中に満ちた気がした。どこか呼吸し難くて、思わず眉を寄せてしまう。そんな私の様子を三日月さんは無害そうな微笑みで見つめていた。そして、やけに楽しそうな声色を出した。
「俺は月の名を持つ者だから安心するといい」
 そうだろうと私に手を伸ばす。その手と目には深い興味が見て取れた。だから、私は。


暗転


___リミッター解除 セットアップ完了 オールグリーン 対象:三日月宗近 スキャンを開始 10…25…60…100% スキャン完了 データとの照合を始める 完了 月の名:三日月 日光依存率6% 月乙女との接続不明 追加サーチ発動 完了 太陽との接続不明

「故に、貴方を信用しない。」

 ヒカルは手を振り払うと鋭い目で三日月を睨む。先ほどまでとは雰囲気も口調も、声色までもが違うヒカルに、三日月はほうと息を吐き、笑みを浮かべた。
「面白い」
 其方様は本当に、面白い。三日月はそう言ってヒカルをそのままに、一歩後退したかと思うとゆらりゆれて消えた。
 ここは、三日月宗近が作り出した世界、彼の夢のような世界ならば、彼は自在に動くことができる。だから消えるという芸当が可能なのだ。
 ヒカルもその結論に至ったのだろう。しばらくその場に立っていたが、やがて怒りすら無い無表情となると手を開いて両手を結び、再びその手をぱっと開いた。
 その瞬間、その場は光と炎と爆発音に満ち満ちた。

- ナノ -