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夢主視点(後半は第三者視点)
おやつの時間、私は和泉守さんと堀川さんとの三人でおやつを食べていた。美味しいねと堀川さんがどら焼きを手に言うので、和泉守さんは美味しいなと返し、私も頷いて返した。特に話すこともなく、でも堀川さんの話に耳を傾けながら過ごしていると、よっと愛染さんがやって来た。
「きょっうのおやつはどっら焼き〜」
上機嫌に歌う愛染さんに、堀川さんと和泉守さんが笑いながら今日も元気だねと言うと、愛染さんはまあなと笑ってどら焼きにかぶりついた。
そうしていると、ふと気になって、後ろを振り返った。庭先のそこには獅子王さんが居て、にこと笑って手を振っていた。だから手を振り返して、獅子王さんが内番の庭掃除に戻るのを見送った。
けど、どうして獅子王さんはこちらを見ていたのだろう。どら焼きを食べたかったのだろうか。
「ヒカルちゃんどうかした?」
堀川さんの質問に私は首を傾げ、まあいいかと頭を横に振った。
………
夜、獅子王が外を歩いているとおやと声をかけられた。振り返るとにっかり青江が片手を上げて笑っている。
「今晩は。夜の散歩かい」
「おう。ついでに鵺を探してる」
そうかと青江は笑い、ふとそういえばと不思議そうな顔をした。
「ヒカルちゃんは居ないのかい」
「ヒカル? 誰かと走ってるんじゃねえの?」
「けど、夜は大抵きみか愛染君と走っているだろう? さっき愛染君と会ったけど、彼はヒカルちゃんと走ってなかったよ」
「そういえばそうだな。あー、念の為部屋に行ってみるか」
体調不良かもしれねえしと獅子王が言うと、そうだねえと青江は笑った。
「けれど夜に男の子が女の子の部屋に行くのはねえ」
「部屋の中には入らねえから安心しろ」
じゃあなと獅子王がその場を離れると、青江は笑顔で手を振って別れた。そして獅子王の姿が見えなくなると空を見上げる。細い月、もう明後日には新月だろうと判断すると早いものだと呟いた。
………
獅子王がヒカルの部屋へ向かって廊下を歩いていると、後ろからパタパタと足音がした。振り返れば赤い髪の愛染が駆け足で獅子王へと駆け寄った。
「ヒカルの部屋に行くんだろ? 俺も行く!」
「別にいいけど、どうしたんだ?」
だって今晩は走っていないみたいだからと愛染が呟くと、獅子王はそうかと頷いて彼の頭をわしゃわしゃと撫でてから一緒に行くかと笑った。
ヒカルの部屋の前に立つと、獅子王が声をかける。おうい、大丈夫か。静寂。ヒカル、どうしたんだ。静寂。
「ヒカル……?」
三度目の呼びかけでごそりと布の擦れる音がした。
「獅子王さん、どうしましたか」
何時ものように平坦な声、しかしか細い声に獅子王は眉を寄せ、愛染が声を上げた。
「俺もいるぜ! ヒカルどうしたんだ? 風邪でも引いたのか?」
「いえ、少し体調不良なだけです」
体調不良ってと愛染が困り顔になると、獅子王が口を開いた。
「何か、温かいものでも持ってくるか? 主を呼んでくることもできるけど……」
「いえ、少しふらつくだけなので寝れば治ります」
心配をかけてすみませんとヒカルが言うと、獅子王と愛染は顔を見合わせてから、それならと引き下がった。
「何かあったら隣部屋の主を頼れよ、おやすみ」
「ゆっくり休めよー!」
そうして二振りはその場を離れ、不安そうな顔をしながらお互いに自室へと戻ったのだった。