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夢主視点


 早朝、起き上がって着替えを済ませ、ランニングシューズを履いて走りに行く。まだ朝靄のある時間、ふと立ち止まり、空を見上げた。

………

………

「ヒカル?」
 名前を呼ばれてハッとする。振り返れば獅子王さんが居て、こんな早朝に走ってたのかと呆れ顔だ。
「走るなら付き添うぜ。というか、ボーッとしてどうしたんだ?」
 何か見るものでもあったかと空を見上げる獅子王さんに続いて、私も空を見上げる。だがそこには雲一つない晴天の青空があるだけだった。

 朝のランニングは、いつもより早い時間から走っていたので早めに切り上げた。走り過ぎは体に負担がかかり過ぎてしまうと背の低い友達から口酸っぱく言われていたのだ。
 時間があるからどうしようかと考えていると、獅子王さんが厨当番の手伝いに行くと言ったので、私もそれについて行った。
 台所では燭台切さんと加州さんが忙しく働いていた。手伝いかい助かるよと笑ったのは、先に獅子王さんと私に気がついた燭台切さんで、加州さんは味噌汁に味噌を溶かしながら、あとは運ぶだけだよと言った。なので獅子王さんと私は料理が盛られた皿を運び、長く大きい机に並べた。俺たちの時代からするとお膳の方が一般的なんだけどなと獅子王さんは教えてくれた。主が、皆と卓を囲みたいと言ったのだ、とも。
 食事を共にする。それだけでその場にいる者たちの絆は深まるそうだ。そんなことを思いながら、審神者さんの号令で朝食を食べ始める。今日はわかめの味噌汁とご飯と焼きジャケ。あとたくわんとジャガイモの煮物があった。いつもと通りに朝からしっかりと量のあるごはんだ。
「食べ終わったら馬に乗ってみようぜ」
 乗ったことないだろと獅子王さんが笑うので、私は頷いたのだった。


 午前中は馬に乗ったり世話をしてみたりして過ぎ去った。時間は11時、獅子王さんは用事があるからと私を審神者さんの部屋に送って、早足でその場を離れた。ちなみに愛染さんは遠征中なので、私の世話係さんが二人ともいない状態だ。だから審神者さんのところに連れて来られたのだが。
「ヒカルちゃんは××××年の出身よね」
 審神者さんが突然そんなことを言うので、私は頷いて肯定する。確かに私はその時代からこの本丸にやって来た。
「もう気がついていると思うけど、本丸は時空に浮かんだ状態だから時代も何も無くてね。まあ、時の政府は2200年代にあるみたいなのだけど」
 それでね、と審神者さんは笑った。そろそろ言おうと思ったの、と。
「私はヒカルちゃんより半世紀も前の人間なのよ」
 それも、と続ける。
「時の政府や、この本丸とは違う世界の人間なの。だから、ヒカルちゃんとも違う世界の人間ね」
「……世界が違う?」
 ええ、そうなのよ、驚いたかなと審神者さんは悪戯っ子のように笑った。
「私は世界を超えて時の政府から声をかけられたの」
「どうしてですか?」
「何だか、霊力だか生命力だか、そういう霊的な力が沢山あるんですって」
 そうですか、と頷く。なぜその話をするのか分からず、私は黙る。審神者さんは苦笑した。
「ごめんね、突然こんな話。でもね、話しておきたかったの」
 もしかしたらと審神者さんは目を伏せた。
「もしかしたら、私のこの多くの霊力がヒカルちゃんを引き寄せたのかもしれないって、思ったの。そんな確証、ひとつもないのにね」
 ごめんね、と審神者さんは繰り返す。その声が何だか痛そうで、気にしているのかと思った。審神者さんは、自分のせいで私がここに居るのかもしれないと。
「分かりません」
 何一つとして分からないだろうに。
「でも、私は審神者さんの所為では無いと思います」
 それだけ言うと、審神者さんはくしゃりと笑って、ありがとうと感謝の言葉を述べたのだった。

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