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夢主視点


 夜のランニングを終えて、付き添ってくれた獅子王さんと別れる。そのまま部屋に戻ろうとしたら、その途中の縁側に座る愛染さんを見つけた。ぼんやりと夜空を見上げていた愛染さんが、いつもの姿とは違って見えて首を傾げる。何が違うのか分からないが、明らかに何かが違った。そうして眺めていると、ふと愛染さんが振り返った。
「ヒカルか、走った帰りか? 」
「はい、そうです」
 素直に答えると愛染さんはそうかと笑った。その笑顔もいつもの、そう、明るさが無くて、いつもと違った。
 無言で見つめていると、愛染さんは苦笑する。大丈夫だと言いながら、また空を見上げた。空にはハッキリと下弦の月が見えた。

「夜になると、たまに蛍たちのことを思うんだ」
 蛍たちとはと首を傾げると、愛染さんは目を伏せて軽やかに語った。曰く、蛍とは蛍丸という大太刀のこと、明石国行という太刀のことも思い出す、と。
「同じ来派でさ、兄弟みたいなものなんだ。思い出なんてあんまり覚えてないけど、町に行けば二人を見ることがある。その時に、何ていうかさ、何とも言えない気持ちになるんだ」
「何とも言えない気持ち? 」
 そう、と愛染さんは笑った。
「どうして俺じゃダメなのかなとか、どうして俺のところに来てくれないんだろうとか。考えても仕方ないけど、思うんだ」
 そんな事、考えたって仕方ないのにと愛染さんは笑う。笑う。その笑顔がちっとも楽しくなさそうだから、私は理解できない。しかし、兄弟というものなら少しは分かるかもしれない。私にいたのは兄弟ではなく、多くの姉妹だが。

「私は長女です」
 愛染さんがぱちりと瞬きをする。
「末女の話をしましょう。そう、彼女達はいつも私のそばに居ました。一時も離れたく無いと、私に依存していました」
「依存? 」
「彼女達は私無くしては存在できないからです。彼女は私有っては存在できないからです。しかし、監視と依存を抜きにしても、彼女達は私が好きだと言っていました」
 戸惑いがちだった愛染さんが、微笑んだ。
「彼女達は私に対して明け透けに好きだと言っていました。私はそれをどうとも思いませんでした。だけど」
 私は愛染さんを見つめた。
「彼女達が居ないと、少し、違和感があります」
 きっとそれは、愛染さんと似たものだろうと伝えれば、彼はくしゃりと笑った。
「ああ、きっとおんなじだな! 」
 そうして立ち上がって、私を見上げて明るく笑った。
「もう寝ようぜ、明日も早いからな! 」
 部屋まで送ると愛染さんが言うので、私はありがとうございますと受け入れて、並んで部屋へと戻ったのだった。

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