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第三者視点


 宵祭りまで祭りを楽しんだ刀剣男士たちと審神者とヒカルは無事本丸へと戻り、点呼と風呂を済ませると各々好きなように明日に備えて行動した。ある者は眠り、ある者は酒盛りをし、ある者は人と語らう。そんな中、近侍の獅子王は審神者の部屋を訪ねた。
 話がある。そう言った獅子王を審神者は不思議そうに受け入れた。

「ヒカルについてだ」
「ヒカルちゃん? 」
 審神者が不思議そうにするのを見て、獅子王は少しその顔を見つめてから目を伏せて話し始めた。内容は夏祭りで飴細工屋の主人から聞いた天候の事。突然晴れた事と、この本丸にも同じことが起き、その天気が続いているという事。そして、それらは全てヒカルに起因しているのではないかとの事だった。
 審神者は静かに獅子王の言葉を聞き、やがて間を置いて答えた。
「それを聞いてどうするの? 」
 獅子王が審神者を見ると、審神者は真っ直ぐに獅子王を見ていた。獅子王はそれに応えるべく、慎重に言葉を選んだ。
「ヒカルは、普通の子供ではないんじゃないか」
「そうだとして、どうするっていうの」
 普段とは違う、波一つない湖面のように静かな審神者に、獅子王は気圧される事なく答えた。
「もしあの子供が何か悪いものなら、この本丸に置いておくべきじゃねえだろ」
 きっぱりと言い切った獅子王に、審神者は一度目を伏せてから、ほんの僅かに感情を乗せて言葉を紡いだ。
「貴方が私や本丸を思ってその言葉を言ったことは、それぐらいは私も分かるよ。でもね、受け入れられない」
 その言葉に獅子王が目を見開く。審神者は伏せた目を外へ逸らして呟くように続ける。外は澄み切った初夏の夜だ。
「私も疑問に思ってた。こんなに晴れ続きなこと、梅雨時の今の時期じゃ異常だよ。でもね、もし、もしもだよ」
 そこで審神者は獅子王を見る。その目は強い光が見えた。
「みんなには内緒にね、石切丸さんと話し合ったの。そこでね、もしかしたらヒカルちゃんに加護を与えた神様の予想が着いたかもしれないの」
 獅子王が唖然とする。審神者は静かな声色に戻り、名前を呼ぶのも恐ろしいと言うように囁いた。
「太陽神、天照御大神、アマテラス。その神が加護を与えたのなら」
 その言葉に獅子王は目を見張る。信じられないと声を張り上げた。
「そんな、最高神だぞ?! 」
 そんな崇高たる存在がたった一人の子供なんかに加護なんて与えるものか。獅子王が詰め寄るが、審神者は落ち着いたまま口を開く。
「でもそうだとしたら辻褄がいくらか合うの。だから、今はそう考えて。とにかく私は、ヒカルちゃんを帰してあげることだけを考えるから」
 審神者がそう言って口を閉ざすので、獅子王もまた黙った。

 しばらくして、獅子王は口を開く。
「分かった。でも、あんま無理すんなよ」
「分かってるよ、ありがとう獅子王」
 ホッとした様子で流石はじじいだねと笑う審神者に、じじいって言うなと獅子王は何時もの調子で返事をしたのだった。

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