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夢主視点(一部獅子王視点)


「祭りだー!! 」
 獅子王さんとの朝のランニングを終えて広間に向かうと、獅子王さんと私を見つけた愛染さんがキラキラした目で叫んだ。
 やがて刀剣男士さんや審神者さんが集まり、朝ごはんを食べる。その最中も愛染さんを中心に、皆さん誰もが祭りを楽しみにしていた。
「ヒカルは祭りで何か食いたいものあるか? 」
 獅子王さんに言われて、私は首を傾げる。祭りとは、神仏に関するものではなかったか。
「屋台でさ、まあ食べ物じゃなくても良いんだけど」
 そう言われて、私は何も答えられずに味噌汁を飲んだ。欲しいもの、というのも特に無い。だったら、私はどう言えばいいだろう。
「……祭りの雰囲気を楽しみたいです」
 当たり障りの無いことを言えば、獅子王さんは欲の無いやつだなあと笑って飴でも食べるかと言った。

 夏祭りなのだから、みんな浴衣を着よう。審神者さんのそんな提案で、集合時間までに皆が浴衣を着る事になった。私はどうしようか、確か私に与えられた部屋に浴衣も置いてあったような。そう考えていると審神者さんが私を呼んだ。
 場所は審神者さんの部屋。取り出したのは白と黄色が使われた浴衣で、オレンジ色の髪によく合うよと赤い帯を締めながら教えてくれた。
「私が昔着てた浴衣なんだけど、うん、やっぱりぴったりだね」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。と、着せちゃってからであれだけど、苦しかったりしない? 辛くなったらすぐに言ってね」
 頷くと審神者さんは楽しそうに笑って自分の浴衣を着始めた。審神者さんは紫色の浴衣で、大人っぽく落ち着いた柄をしていた。淡いピンクの帯を締めてバッチリと笑っていた。
「じゃあそろそろ門のところに行こっか。集合時間までまだあるけど、私が遅刻したら怒られちゃう」
 そうして私は審神者さんに連れられて門へと向かった。

 門では本丸に所属する刀剣男士さんの半分ほどが集合していた。皆さん各々個性豊かな浴衣を着ていてなかなかに華やかだ。
「ヒカルー! 」
 私の名を呼んで手を振る愛染さんは浴衣ではなく甚兵衛で、その隣には浴衣を着た獅子王さんが居た。二人とも早いと思っていると、どうやら愛染さんがはしゃぎ過ぎて早かったようだ。
 やがて時間となり、審神者さんが一通りの注意事項を述べて門に手をかざす。浮かび上がった紋様をスライドさせると門が僅かに開き、獅子王さんと愛染さんが二人がかりでその門を開いた。そしてその先にはこの間見た町、だけれど祭りの装いになった賑やかな町がそこにはあった。
「ヒカル、行こうぜ! 」
 愛染さんが私の手を取って進み出す。だから私は転ばないように気をつけながら続いたのだった。

 刀剣男士さんたちは班を組んで、時間になったら本丸に帰るようにと審神者さんは指示していた。ということで、私は審神者さんと獅子王さんと愛染さんの三人と同じ班となったらしい。多分、お世話係という事だろう。
「あ! 団扇売ってるぜ! 」
「一つ買ってこうか。お、向こうにあんず飴があるね! 」
「バラバラに動こうとすんなって。とりあえず団扇買ってからあんず飴な! ヒカルはあんず飴食えるか? 」
 獅子王さんの言葉に、食べた事がないと答えると、なら挑戦してみるかと返事が返ってきた。
 団扇を買ったらすぐにあんず飴の屋台へと向かって、審神者さんがキラキラ光る飴を四本買った。ひとつもらって食べるととても甘くて、成る程飴だと思った。
 寿司や焼きそば、ヨーヨー釣りにポン菓子。時代が錯誤した店の並びに目が眩む。それでも愛染さんは私の名を呼びながらこちらに手を振っている。どうやら射的がやりたいようだ。審神者さんが獅子王もどうかと言うと、獅子王さんは銃は積めねえってと言いながらも愛染さんと射的で遊んだ。
 そういえば、祭りには前に町に来た時と同じように、色んな審神者さんや刀剣男士さんがいる。だから私は審神者さんを黒さんと呼んで、私のことは他の審神者さんからは見習いさんねと呼ばれた。見習いって何だろうと思っていると、黒さん曰く審神者見習いのことらしい。
「たまに居るの。未成年だと大体見習いから始めて、経験を積んでから正式な本丸を持つ。でも未成年が審神者になろうとするなんて滅多に無いわ」
「未成年はだめなんですか」
「時の政府の時代だと、未成年が働くのは法律違反になることもあるとか、何とか」
 主は相変わらずふんわりしてんなと獅子王さんが言うので、黒さんはしょうがないじゃないと答える。
「私は成人してから審神者になったんだもの。見習い制度なんて他の審神者さんに聞くまで全く知らなかったんだから」
「ま、対象じゃないと知らないよなー」
 そこで愛染さんがわたあめを持って帰ってきた。それを見た獅子王さんは、向こうの飴細工を買ってくると黒さんに言い、許可を得ると屋台へ向かった。私は愛染さんがくれたわたあめを食べて、その甘さに驚いてしまっていた。

………

 目の前には色とりどりかつ華やかに形作られた飴細工が並んでいる。愛染には鶏、主には兎が良いかなと考えて、ヒカルには何が良いかと考える。いつも走っているから犬で良いかと決めると、屋台の主人に話しかけた。品物を伝えてお金を渡す際、主人はそういえばと言った。
「にしても良かったですねえ、こんなに晴れて」
「え? 」
「おや、お客さんは知らないのかい? ここは朝まで土砂降りでね、二時間前ぐらいに晴れたのさ」
 屋台の準備が大変だったと笑った主人に、引っ掛かりを覚える。二時間は丁度俺たちがこの町にやって来た時刻だったからだ。
「本当に良かった。晴れ男でもどっかに居たんですかねえ」
「……なら、感謝しないとですね」
 そうだねえと主人は飴細工を小袋に入れて渡してくれた。ありがとうと受け取ってから、考える。
 晴れ男、という言葉は確かに聞いた事がある。その女版も、知っている。そしてこの町は俺たちが来た時間に晴れた。同じように、俺たちの本丸は雨続きだったのに突然晴れ始めた。否、突然ではないのかも。
(ヒカルが、来た時なのか? )
 そして俺たちの本丸はヒカルが来てからずっと晴れ続きだ。
(原因がヒカルだっていうのか)
 真逆と思う。しかし、だとしたら納得する。だが、何故、ヒカルはその場を晴れさせる事ができるのか。否、意図的ではないのかも。
「あー、わっかんねえ」
 とりあえず戻るかと、俺は主達の元へ向かったのだった。

………

 獅子王さんは戻ってくると鶏と兎と犬の飴細工を持っていた。そしてそれぞれ愛染さん、審神者さん、私に渡すと良しと満足そうに笑った。
「あれ、獅子王の分はないの? 」
「俺はいいの! ちゃんと自分の小遣いで買ったんだぜ」
 贈り物だと笑うので、審神者さん達と共にありがとうと返すと獅子王さんはまた明るく笑った。

 飴細工を片手に歩いていると、ブローチやリボンと言ったアクセサリーを売っている店があった。審神者さんはそうだと言って立ち止まる。
「ね、ヒカルちゃんは髪飾りとか着けないの? 」
「そういや加州達があってもいいんじゃないかって言ってたな! 」
 愛染さんがパッと顔を明るくして、どれが良いかと品物を見始める。獅子王さんもこれが合うんじゃないかと言ってピン留めを幾つか見せてくれた。審神者さんは私の髪色と肌を見て、赤い小物が合うかなと言う。すると獅子王さんと愛染さんはそれならと一本の赤いリボンを手にした。
「これをさ、こうやって着けたらどうだ? 」
「カチューシャみたいにするのね! いいと思う! 二人とも考えるね」
「だってヒカルは髪が短いから結べねーじゃん! 」
 愛染さんが言うと、それもそうだと私は頷いた。すると審神者さんが代金を払っている間に、獅子王さんが私の頭にくるりと赤い髪飾りをつけた。カチューシャのように着いた赤いリボンは、私の髪色と確かに似た色だろう。
「よし、これでどうだ? 」
「おー!よく似合ってる! 」
「お待たせ。早速着けたのね、うん、やっぱり赤色が似合うわ」
 三人とも楽しそうに笑っていて、私もまた笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
 大事にしなくては。わたしは確かにそう思ったのだった。

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