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夢主視点


 早朝。起きた私はすぐに着替えて部屋を出た。ランニングシューズを履いていると獅子王さんがやって来て、ランニングに付き添うと言ってくれた。なので私は、分かりましたと了承した。
 朝の澄み切った冷たい空気を吸い込んで、一定の速度で走る。今日は屋敷をぐるりと一回りしようと決めて、獅子王さんに伝えれば応と少しだけ眠そうな返事が返ってきた。
 この本丸にある屋敷は広い。その周りも当然長い距離になる。呼吸に気をつけながら二周すれば、あっという間に朝食の時間近くになった。そこで獅子王さんと別れて部屋に戻り、手早く着替えてから食事をする座敷に向かうと、なにやら刀剣男士さんが勢揃いしていた。
 いつもは寝坊している人まで起きているので、何かあったのだろうかと思いながら席に着く。隣の獅子王さんを見ればにかっと笑われ、愛染さんは目をキラキラとさせていた。一体何なのだろう。
 そこで審神者さんがやって来て、席に着いた。そして朝食の号令と共に食事が始まる。が、審神者さんは食べ始めていなかった。

「はい、今日は時間がないのでみんなは食べながら聞いてね」
 それを聞いた刀剣男士さん達は、いつもでは考えられないぐらい静かに食事をしていた。私も言われた通りに箸を進めながらも、審神者さんがなにを言い出すのか気になって仕方なかった。
「前に知らせておいたお祭りだけど、とうとう明日に迫りました。ここ最近の戦績なら政府もとやかく言わないわ」
 みんなよく頑張ったね、と審神者さんは微笑んだ。
「ということで、明日はお祭りに行きます。なので、今日中に明日の分まで仕事を片付けてしまいましょう! 政府に何やかんや言われる芽は全て潰す! 何故なら私達がお祭りを満喫するために! 」
 そこで審神者さんが刀剣男士さん達全員に仕事を割り振り始めた。出陣と遠征、炊事洗濯掃除。本丸の見回りまで全て割り振った審神者さんは、最後に私を見た。
「ヒカルちゃんは国広と庭掃除をお願いね」
 国広とは、この本丸では山姥切国広さんを指す。あまり話したことがないけど、掃除に支障が出ることはないだろう。私は頷いて了承した。

 かくして、私は山姥切国広さんと庭掃除をすることになった。
 竹箒を使って落ち葉を掃く。一箇所にまとめたらすぐに袋に入れて、コンポストへ。この本丸ではコンポストを使って畑で使う肥料を作っているという。ゴミをなるべく出さないのは大切なことだと、前に友人が言っていた気がする。
「ヒカル、疲れてないか」
 しばらくこちらを向いて黙っていた山姥切国広さんに話しかけられ、私は頭を横に振った。まだ掃除を始めて三十二分十六秒。同じように庭掃除をしている刀剣男士さんと担当区域を分担しているとはいえ、まだまだ掃除は終わらない。なので、疲れるわけにはいかないのだ。
「……そうか」
 眉を下げた山姥切国広さんに、首を傾げる。彼は悲しんでいるようにも、残念そうにも見えた。
「疲れたら、すぐに言ってくれ」
 休憩するからと言った山姥切国広さんに、心配されたのだと気がついた。確かに、刀剣男士さんからしてみれば私はか弱く見えるのだろう。しかし私も毎日のランニングを耐えられるぐらいの、筋力と体力は持ち得ている。
 そう伝えれば、山姥切国広さんはそうかと首を傾げてから、それなら良いと頷いたのだった。

 庭掃除を進めていると、洗濯当番の今剣さんと青江さんに出会った。ふたりが大きなシーツに苦戦していたので、私は石切丸さんを呼びに向かった。
 石切丸さんは刀装を作る祭壇の手入れをしていて、干すのを手伝うくらいならと洗濯当番のふたりのもとへと向かってくれた。私も急いで庭に戻り、掃除に取り掛かった。
 今は初夏といえど、雨も降れば風も吹くこの本丸では葉が落ちる。せっせと落ち葉を掃いていると、裏の井戸まで来ていた。そこでは加州さんと堀川さんが調理器具を洗っていて、タワシを使ったり、スポンジと石鹸を使ったりと工夫しながら、普段の手入れでは手が回らない調理器具を洗っていた。ふたりは私に気がつくと、頑張ってねと応援してくれた。
 掃除しているうちに畑の近くまでやって来ると、愛染さんと獅子王さんが畑当番をしていた。美味しそうな野菜だろと、トマトを手に笑う愛染さんは祭りが待ちきれないようだ。しかしそこで国広はと獅子王さんに問いかけられて、そういえばと私は山姥切国広さんの元へと戻った。

 戻ると、どうやら今日の私の世話係は山姥切国広さんだったらしく、心配したと言われた。昨日、審神者さんと獅子王さんから聞いたような理由から、その不安は来ていたのだろうかと思い、私は休憩しながら何があったか話をしましょうと提案したのだった。

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